研究課題
肝細胞癌は血流の豊富な腫瘍であり、その発生、進展、転移に血管新生が重要な役割を果たしている。肝細胞癌組織で血管内皮細胞増殖因子(VEGF)やアンギオポエチン(ANG)などの血管新生因子が発現すること、これらの因子の発現の程度と脈管侵襲、転移の程度や生命予後が相関することが報告されている。我々の検討によって、ANG-2の受容体であるTIE-2を発現する単球(TIE2-expressing monocytes, TEM)が肝癌患者の末梢血および肝臓組織中で増加しており、肝細胞癌組織における血管新生と正相関することが明らかになっている(Matsubara T, Kanto T et al. Hepatology 2013)。したがって、肝細胞癌における骨髄由来細胞による血管新生プロセスの解明やその制御方法の開発は、肝癌に対する新たな治療戦略となる可能性がある。本研究では、下記の点につき検討し、血管新生と免疫抑制を繋ぐマクロファージなどの骨髄系細胞の肝癌への浸潤、分化誘導の分子機序を解明することを目的としている。それによって、肝癌制御のための治療標的を明らかにすることを目標とする。今年度は肝がん由来の因子がTIE-2発現を誘導すると仮定し、肝がん患者血清中の造血因子、ケモカイン、サイトカインをMultiplex法で網羅的に解析し、末梢血のTEM頻度との関連性を検討した。肝がん患者では、M-CSF、HGF、IL-8、IP-10が健康成人に比較して高値であった。肝がん患者を末梢血TEM頻度によってTEM頻度高群(>2.75%)、TEM頻度低群(<2.75%)に分けて各因子を比較すると、TEM頻度高群ではM-CSF、HGF、Osteopontin、Follistatinが高値であった。これらの因子が肝がんにおけるTEM誘導に関与する可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
血清中の造血因子、ケモカイン、サイトカインを一括測定できるシステム(Mutiplex法)を導入し、肝がん、肝硬変、慢性肝炎、健康成人のプロファイルを比較した。その結果、肝がん患者では、M-CSF、HGF、IL-8、IP-10が健康成人に比較して有意に高値であった。また、肝がん患者を対象としてTEM頻度と各因子との関連性を比較することで、TEM高値群ではM-CSF、HGF、Osteopontin、Follistatinが高値であることが明らかになった。以上の結果は、肝がん患者におけるTEMの誘導に上記の因子が関与する可能性を示唆している。特にM-CSFはいずれの解析でも有意な因子として検出されており、TEM誘導との強い関連が示された。TEM誘導に関する候補因子のスクリーニングが順調に進んでおり、計画通りの達成度である。
1)肝がん患者におけるTEM誘導因子の同定と臨床病態との関連性の検討今年度の検討で明らかになったTEM頻度と関連する因子(M-CSFなど)を候補として、各因子単独あるいは組み合わせによるTIE-2誘導能を評価する。末梢血より採取した単球を各因子の存在下で培養し、マクロファージへの分化やTIE-2発現を検討する。TEMのin vitroでの分化誘導系が確立出来れば、その過程における転写因子や機能に関与する因子の同定を行う。肝がん切除標本を用いて、M-CSF等のTEM誘導因子の発現と、臨床病態(肝予備能、予後、転移の有無など)との関連性を検討し、病態関連マーカーとしての有用性を検証する。2)肝癌に対する分子標的治療による血管新生関連ミエロイド細胞の修飾機構の解明既に臨床で使用されている分子標的薬Sorafenibは、肝癌細胞におけるVEGF経路を阻害する作用も有している。またNK細胞の活性化作用を発揮する可能性も報告されている。Sorafenib治療前後でTEM頻度、TEM誘導因子を比較することで、治療効果における関与を明らかにする。またTEM頻度、TEM誘導因子と再発との相関を解析し、再発予測マーカーとしての臨床的有用性を検証する。
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J Gastroenterol
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DOI 10.1007/s00535-014-1023-2