研究課題/領域番号 |
26461029
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
濱田 晋 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 助教 (20451560)
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研究分担者 |
正宗 淳 東北大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (90312579)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | miR-197 / PSC-CM |
研究実績の概要 |
本年度はテトラサイクリン誘導性にmiR-197を発現するMIAPaca-2由来細胞株を用いて、マイクロアレイで同定された潜在的なmiR-197の標的遺伝子発現レベルをリアルタイムPCRにて検証した。その結果、ミトコンドリア関連分子であるATP合成酵素サブユニットファミリー遺伝子やCytochrome C oxidaseファミリー遺伝子の発現低下が確認された。また、膵癌細胞に上皮間葉形質転換(EMT)を誘導する種々の刺激は膵癌細胞の代謝機構を多様に変化させることが報告されているため、膵星細胞培養上清(PSC-CM)による刺激が膵癌細胞株に与える影響についても評価を行った。その結果、PSC-CMには高濃度のIL-6が含まれることを確認し、細胞内での主要な炎症性シグナル伝達因子であるSTAT3のリン酸化が膵癌細胞で惹起されることが明らかとなった。PSC-CMによる刺激は膵癌細胞の遊走能を増強し、この作用はPSC-CMにSTAT3阻害剤を添加することやIL-6中和抗体処理を行うことによって抑制されることを確認した。PSC-CMによる刺激は膵癌細胞においてSOCS3やSERPINA3といった典型的なIL-6標的遺伝子を誘導したが、既報ではIL-6が様々な解糖系酵素の発現誘導を介して解糖系活性を上昇させるとの報告もみられるため、PSC-CM刺激による膵癌細胞でのメタボローム変化の網羅的解析にも着手している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度はmiR-197強制発現によって発現変化する遺伝子について、mRNAレベルでの発現低下を確認した。これらの遺伝子はミトコンドリアでのATP産生を制御する中心的な分子であり、miR-197発現によって細胞の酸素消費量が低下するメカニズムを解明する基礎となる結果と考えられる。また、miR-197以外のEMT誘導刺激に関しても解析を実施し、PSC-CMがIL-6/STAT3経路を介して膵癌細胞にEMTを誘導することを明らかにした。IL-6/STAT3経路は細胞内の解糖系活性増強に寄与することが報告されているシグナル伝達経路であり、もう一つのWarburg効果誘導因子として機能している可能性が考えられる。以上のように膵癌細胞の代謝に関わる複数の上流因子が同定され、その制御メカニズムの一端が明らかにされはじめていることから、本研究課題の進捗状況はおおむね良好と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
次年度はこれまでに同定されたWarburg効果誘導因子の下流のシグナルについて解析を進めるとともに、動物モデルを用いた解析も実施する。当科で導入している膵特異的に変異Krasおよびp53を発現するKPCマウスを用いて、前癌病変から浸潤癌へと移行する段階でmiR-197およびその標的遺伝子の発現が変化しているかをin situ hybridizationや免疫染色にて確認する予定である。また、PSC-CM刺激によって変化する膵癌細胞内の代謝機構の変化についても解析を進め、特異的な増減を示す物質を特定する。特定された物質については膵癌患者由来血清やKPCマウス血液サンプルでの検出・定陵を行い、診断への応用が可能であるかを評価する。膵癌におけるWarburg効果の抑制が治療効果を有するかについては、膵癌細胞株を用いて解糖系活性の亢進に寄与している分子のノックダウン実験を行い、ヌードマウスでの腫瘍形成能や抗癌剤への感受性の変化を確認する予定である。薬剤によって阻害が可能なシグナル伝達経路については担癌KPCマウスへの投与実験を行い、膵癌進展の抑制効果がみられるかや担癌マウスのエネルギー代謝が変化するかを解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
本年度は網羅的解析のデータ解析に時間を要したため、消耗品を使用する実験が予想より少なかったため。
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次年度使用額の使用計画 |
来年度は網羅的解析の結果を確認する細胞培養実験・生化学実験を集中して行うため、次年度使用額を併せて使用する予定である。
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