本年度は最終年度として、膵癌細胞・膵星細胞間相互作用によって変化する膵癌細胞内の代謝機構について解析を行った。 我々のこれまでの検討により、膵癌細胞を膵星細胞培養上清(以下、PSC-CM)で処理することで膵癌細胞のEMT促進・癌幹細胞機能の亢進がみられることが判明している。質量分析を用いた網羅的解析によって、PSC-CM処理は膵癌細胞の代謝機構に大きな影響を与えることが明らかになった。その中でも解糖系およびTCAサイクル中間代謝物の増加が著しく、膵星細胞による刺激がエネルギー産生を促していることの証左と考えられた。膵癌細胞内のアミノ酸含有量にも変化がみられ、細胞生存や増殖促進作用との関連か想定される。 我々はPSC-CMによる刺激が正常酸素分圧条件下でもAkt・ERK経路を介して低酸素応答性マイクロRNA、miR-210誘導を引き起こすことを報告してきたが、細胞のエネルギー産生を変化させる低酸素応答シグナルは今回の研究で観察された細胞内代謝の変化に寄与している可能性が高い。PSC-CMに含まれるシグナル伝達分子としては通常のサイトカインや成長因子に加えてexosomeが注目を集めており、膵星細胞からはexosomeが放出されることもすでに同定している。膵星細胞由来のexosomeには細胞遊走促進作用があり、細胞内代謝への影響についても評価が必要である。これまでに得られた膵癌細胞の細胞内代謝に関する知見を基礎として、その上流の制御因子と作用メカニズムの詳細につき、更なる解明を進める予定である。
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