研究実績の概要 |
これまでの遺伝学的な知見は、トリプシンの膵内での早期活性化が他の消化酵素を活性化する重要な鍵となるという仮説を支持している。このためトリプシンとその阻害蛋白を中心に精力的に解析されてきたが、アルコール性膵炎の遺伝的背景因子は未だ不明である。一方、近年ではDNAのなかでも蛋白質を符号化しているmRNAの翻訳領域(エクソーム)が注目されている。本研究では次世代シークエンサーを用いたエクソーム解析により、アルコール性膵炎発症と関連する低頻度アレルを同定することで、これまで不明であったアルコール性膵炎発症のメカニズムを解き明かすことを目的とする。本研究ではアルコール性膵炎と診断された症例16例を対象に、ゲノムDNAを抹消血白血球より抽出した。Sure-Select Human All Exon Kit を用いて、エクソン領域のDNA断片を抽出、濃縮した。次世代シークエンサーのHiseq2500を用いて行い、180,000個のエクソン領域を網羅的に解析した。ターゲット領域の平均depthは70以上と良好であった。1症例あたり平均7千万リードを読み取った結果、エクソン領域に約68,000個のvariantを認めた。このうち日本人のデータベースと比較し高頻度に認められた複数のvariantを膵炎関連遺伝子候補として抽出している。現在、候補遺伝子を対象に560例の膵炎患者について遺伝子解析を行い、膵炎との関連について評価中である。このうちring finger protein 113Bに認められたvariantは217例のアルコール性膵炎患者のうち31例(14.3%)に認められ、健常群410例中29例(6.6%)に比べ有意に高頻度であった(p値0.002)。
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