研究実績の概要 |
これまでに報告された既知の遺伝子異常は遺伝性膵炎や特発性膵炎と関連しており、最も主要な成因であるアルコール性膵炎の遺伝的背景因子はこれまで明らかにされていない。最近の研究成果からは、種々の疾患発症に対する影響度の高い遺伝的要因は、低頻度アレルのものに多いことが見いだされている。このような低頻度アレルは、ゲノムワイド関連解析のようなcommon SNPを対象とした解析では見出すことが困難であり、ゲノム配列解析が必須となる。近年ではDNAのなかでも蛋白質を符号化しているmRNAの翻訳領域(エクソーム)が注目されている。全エクソーム領域をシークエンスすることは、強力な仮説に依存しないアプローチ法となりうる。本研究では次世代シークエンサーを用いたエクソーム解析により、アルコール性膵炎発症と関連する低頻度アレルを同定することで、これまで不明であったアルコール性膵炎発症のメカニズムを解き明かすことを目的とする。本研究はアルコール性膵炎と診断された症例16例を対象に、ゲノムDNAを抹消血白血球より抽出した。Sure-Select Human All Exon Kit を用いて、エクソン領域のDNA断片を抽出、濃縮した。次世代シークエンサーのHiseq2000を用いて行い、エクソン領域の遺伝子異常を網羅的に検出した。本年度は得られたデータにを元に膵炎との関連を分析した。16検体から1,376,000個の遺伝子異常を同定し、イントロン領域のものは除外した。Human Genetic Variation Databaseを用いて日本人健常者と比較し、オッズ比が5倍以上と高かった遺伝子異常74個について、症例数を増やして追加検討した。その結果、RNF113Bのミスセンス変異がアルコール性膵炎患者において有意に高頻度であることが確認された。
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