研究課題
これまでに申請者は細胞質内に存在するモノアミンを小胞に取り込むトランスポーターの一種Vesicular monoamine transporter 2 (VMAT2)に着目して研究を進めてきた。VMAT2はモノアミンを伝達物質とする細胞間シグナル伝達機構を調節する。このモノアミンを利用したシグナルは膵臓の発生および生体の膵β細胞における機能維持・細胞増殖・細胞死の制御に重要であることが予想される。申請者は約2000種の低分子化合物をマウス生体から単離した膵島の培養系に添加し細胞増殖について解析したところ、数種類の化合物が膵β細胞の自己複製を有意に促進することを明らかにした。さらにこのマウス膵島での実験結果を踏まえてヒトiPS細胞から分化誘導させた膵β細胞でも自己複製の活性化について検証した。その結果、前述のマウス膵島を用いたスクリーニングの結果と類似する結果を得た。最も効果のあった化合物はモノアミン受容体の阻害剤であったことから、受容体遺伝子のノックダウンと過剰発現をマウス膵β細胞株であるMIN6細胞を用いて行った。その結果、化合物の効果を支持する結果を得た。このことから、生体内の膵β細胞量を一定に保つ機構の一部にモノアミンを介するシグナル伝達が重要な役割を果たしていると推察している。また、VMAT2を膵α細胞またはβ細胞種特異的に欠損するコンディショナルノックアウトマウスを作製した。これらのマウスでは随時の血糖値には差が見られないものの腹腔内グルコース負荷試験を行うとそれぞれのマウス系統で経時的な血糖値の変化に差がみられた。また、高血糖時には膵β細胞においてVMAT2タンパク質の量的な増加がみられることを明らかにした。これらの結果から、生体でのモノアミンを介するシグナル伝達によって膵β細胞の量のみならず、インスリン分泌能も調節されている可能性がある。現在、分子レベルでの解析を進めている。
2: おおむね順調に進展している
次年度に予定していたヒトiPS細胞を用いた膵β細胞増殖に関する基礎データに関して予定より早く着手することができた。これらのことから研究の進行は順調である。
モノアミンを介する膵β細胞の複製機構には、ドーパミンD2受容体を介するシグナルが負に働いていることが予想されることから膵β細胞株であるMIN6細胞を用いて受容体のノックダウンおよび過剰発現株を作製する。そして、これらの細胞株の細胞増殖ならびに細胞死が野生株と比較してどのように変化するのか解析する。そして、インスリン分泌とモノアミンの関係についてはコンディショナルノックアウトマウスでの表現型の差異がみられていることから、この点に関してさらに深く解析していきたい。具体的には血糖値を変化した時点での組織切片を作製し、免疫染色にて解析する。また、VMAT2を過剰発現させたMIN6細胞での遺伝子発現変化についてマイクロアレイなどを用いて網羅的に解析することでVMAT2より下流のメカニズムを解明する。
研究室の異動に伴い実験の進行に影響が出たため
残額は次年度における実験試薬、実験機器または動物の飼育にかかわる予算として使用する計画である。
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http://kumanichi.com/news/local/main/20131216002.shtml
http://first.lifesciencedb.jp/archives/8151