研究実績の概要 |
本研究課題においてマウス膵島細胞の分散培養条件について検討し、膵β細胞の細胞分裂を促進する化合物をスクリーニングするための系を構築した。この培養法を用いることで通常細胞量を一定に保つための仕組みが働いているために細胞増殖が起こらない膵β細胞の増殖性が僅かに高まると考えている。そこで、約3000種類の低分子化合物を分散培養期間中に2日間処理すると同時にEdU (5-エチニル-2'デオキシウリジン)を細胞に取り込ませβ細胞のEdU陽性率を指標に化合物をスクリーニングした。 その結果、ドーパミンD2受容体(Drd2)のアンタゴニストであるDomperidon(DPD)を同定した。さらにDPDの培地への添加によって一定期間培養後に自己複製能の上昇に加えて強い脱分化抑制効果と細胞死抑制効果があることを明らかにした。 そして、この効果の分子機構について調べた結果、Drd2とアデノシンA2a受容体がヘテロ複合体を形成することでアデノシンA2a受容体の機能を促進しβ細胞の細胞分化・脱分化や細胞分裂・細胞死が制御されている可能性が示唆された(Sakano et al., Stem Cell Reports, 2015)。このようにGPCR同士がホモ・ヘテロ結合をすることでそれぞれの受容体とリガンドとのアフィニティーを変化させることで複雑な細胞シグナルの調節がなされているという考え方が最近多くの研究者から発表されている。本課題で得られた結果もその一部であると考えている。現在、さらに複数の化合物ライブラリーを用い、新たにいくつかのGPCRによりβ細胞の分化レベルや増殖性が制御されることを見出しており引き続き研究を行っている。
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