研究実績の概要 |
本研究の目的はKRAS変異陰性膵がんにおける治療標的となりうる遺伝子異常を同定することである。そこで、KRAS変異陰性膵がんについて高速シークエンサーを用いたシークエンス解析により治療標的となりうる新規融合遺伝子、遺伝子変異、遺伝子増幅の同定を行い、同定された遺伝子異常について、頻度や診療情報との関連を明らかにする方針とした。また、異常遺伝子産物の機能解析を行い、臨床現場での治療標的としての可能性を検討するとともに、ゲノム解析や免疫染色等診断法をする。
昨年度までに同定されたKRAS変異陰性膵がん4例のうち十分量のゲノムDNAが得られた3例(P013, P030, P096)について次世代シークエンサーを用いた全エクソンシークエンス解析を行った。その結果、2例(P030, P096)で体細胞変異が同定された。前者では、ドライバー変異と考えうるRASファミリー遺伝子の活性化変異が同定された。また、KRAS変異陰性4例を含めた13例について全RNAシークエンス解析を行った。その結果、膵がんでは報告のない既知キナーゼがん遺伝子の融合がP096症例で見られた。ゲノム解析の結果、融合は二つの遺伝子座に生じたDNA二本鎖切断が非相同末端結合によって異常修復された痕跡が残されていた。この結果は、遺伝子融合が知られる肺腺がんと同様の分子機序で、膵がんでも遺伝子融合が生じることを示している。また、免疫染色解析の結果は、融合タンパク質発現を支持するものであった。よって、免疫染色法が当該遺伝子融合の診断に有用であることが示唆された。現在、Ba/F3細胞を用いたがん化ドライブ能や既存のキナーゼ阻害薬への感受性を調べている。
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