研究課題
我々は、発熱時にQT時間が著明に延長しtorsades de pontesを発症した潜在性QT延長症候群(47歳、女性。KCNH2-G584S)、運動時に失神を呈し、心房頻拍、洞機能不全を合併したブルガダ症候群(17歳、男性。SCN5A-R1632C)、運動時に心肺停止となったブルガダ症候群(15歳、女性。SCN5A-A735E)、冠攣縮性狭心症にて心室細動を発症した症例(51歳、男性。KCNH2-P10S)など、異なる顕性化因子によって致死性不整脈を発症した症例において、各病態と関連すると考えられる遺伝子変異を同定し得た。さらに、各変異を作成し、培養細胞株に発現させ、パッチクランプ法にて電気生理学的特性を検討した。細胞外液を低温から高温にした時、野生型KCNH2は外向き電流の増大を認めたが、G584S変異は外向き電流の増大が軽微であった。野生型では高温時は不活性化曲線の脱分極側シフトが大きかったが、G584S変異では小さかった。一方、他のKCNH2変異では野生型と同様に高温時に外向き電流の増大を認めた。これらの結果から、G584S変異では、高温時は不活性化の増強によりKCNH2電流/IKrの増高が軽微であり、本変異キャリアでは発熱時にQTが延長する主因と考えられた。SCN5A-R1632C変異は、野生型SCN5Aと比べ不活性化曲線の過分極シフト、速い不活性化からの回復の遅延を認め、速い不活性化状態の安定性が増強していた。本変異は、高頻度刺激で電流抑制が強く、頻拍時によりNa電流が減少すると考えられ、運動時にNaチャネル機能異常が増強し、表現型を説明し得ると考えられた。このように、潜在性致死性不整脈疾患患者において、遺伝子変異特異的顕性化因子を同定し、さらに、チャネル機能異常を解析することにより、各顕性化因子による致死性不整脈発症の分子機構の解明につながると考えられる。
3: やや遅れている
我々は、発熱により顕性化した潜在性QT延長症候群、運動により顕性化したブルガダ症候群において、各病態と関連すると考えられる遺伝子変異を同定し、さらに、各顕性化因子によるチャネル機能異常を解明した。このように、一部ではあるが遺伝子変異特異的顕性化因子による致死性不整脈発症の分子機構を解明し得た。しかしながら、SCN5A-A735E(運動時に心肺停止となったブルガダ症候群(15歳、女性)に同定)、KCNH2-P10S(冠攣縮性狭心症にて心室細動を発症した症例(51歳、男性)に同定)の機能解析は未実施である。
潜在性致死性不整脈疾患患者において、遺伝子変異特異的顕性化因子を明らかにし、さらに、病態と関連する遺伝子変異を同定すべく、症例の集積及び遺伝子解析を継続する。遺伝子変異が同定された場合、発現実験により機能解析を行う。すでに同定されているSCN5A-A735E(運動時に心肺停止となったブルガダ症候群に同定)、KCNH2-P10S(冠攣縮性狭心症にて心室細動を発症した症例に同定)の機能解析は未実施であり、早急に行う。
本年度は、新規の潜在性致死性不整脈疾患患者の同定は少なく、臨床データの集積及び遺伝子解析に要する費用は予想より少ない額で行うことができたため。
しかし、すでに同定されている遺伝子変異で機能解析を行っていないものも複数あり、次年度使用額は、パッチクランプ実験に関する消耗品として使用したい。
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Circulation Journal
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
doi:10.1253/circj.CJ-15-0322
Circulation: Arrhythmia and Electrophysiology
巻: 6 ページ: 1122-1128
doi: 10.1161/CIRCEP.114.001806