研究課題/領域番号 |
26461056
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
中島 忠 群馬大学, 医学部附属病院, 講師 (40510574)
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研究分担者 |
倉林 正彦 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (00215047)
金古 善明 群馬大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (60302478)
五條 理志 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90316745)
林 研至 金沢大学, 大学病院, 助教 (00422642)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 致死性不整脈 / 潜在性 / 顕性化因子 / 遺伝子変異 / イオンチャネル |
研究実績の概要 |
ブルガダ症候群は壮年男性に多く、心イベントの発症は典型的には安静時や睡眠時に多い。しかし、我々は、有症候性ブルガダ症候群27例のうち、運動中に心イベントを発症した症例を2例見出した(非典型ブルガダ症候群)。1例(15歳、女性)はSCN5A-A735E変異を有し、他1例(17歳、男性)はSCN5A-R1632C変異を有していた。培養細胞株発現系を用いたパッチクランプ法による機能解析では、A735E変異はナトリウム電流(INa)を発現しなかった。一方、R1632C変異は速い不活性化からの回復が著明に遅延し、速い不活性化状態の安定性が増強していた。そのため、保持電位-90mV(心筋の静止膜電位付近)から脱分極パルスを与えたときのINa電流値は著明に減少していた。また、高頻度刺激によりINaは著明に抑制されたことから、本症例では運動時にINaがさらに減少し心イベントを発症したと考えられた。 さらに、発熱時には通常QTc時間は短縮するが、発熱時にQTcが延長し心イベントを発症した潜在性QT延長症候群2例を経験した。1例(47歳、女性)にKCNH2-G584S変異を、他1例(2歳、男児)にKCNH2-D609Gを同定し得た。発現実験では、野生型KCNH2では細胞外液を低温から高温にした場合KCNH2電流の増大を認めた。一方、G584S変異、D609G変異では、KCNH2電流の増大は軽微であり、それはKCNH2チャネルの不活性化の増強によることを明らかにした。発熱時にQTc時間が延長し心イベントを発症した症例で同定された変異はKCNH2のS5-pore領域に限局しており、KCNH2チャネルの構造-機能連関の解明にも有益な情報をもたらした。 我々の研究成果は、潜在性遺伝性不整脈疾患の疾患概念を細分化し、遺伝子変異特異的治療法・マネジメントの確立や新規治療法の開発につながる可能性がある。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
我々は、運動中に心イベントを発症し、心房頻拍、洞機能不全を合併したブルガダ症候群(非典型ブルガダ症候群)に新規SCN5A-R1632C変異を同定した。培養細胞株発現系を用いたパッチクランプ法による機能解析では、R1632C変異は速い不活性化からの回復が著明に遅延し、速い不活性化状態の安定性が増強していた。そのため、保持電位-90mV(心筋の静止膜電位付近)から脱分極パルスを与えたときのナトリウム電流(INa)値は著明に減少していた。また、高頻度刺激によりINaは著明に抑制された。本症例では運動時にはINaはさらに減少し、運動時に心イベントを発症したと考えられた。上記結果を、Heart Rhythm 2015;12:2296-2304に報告した。 一方、発熱時にQTc延長をきたし、心イベントを発症した症例で同定されたKCNH2変異の電気生理学的解析は終了した。得られたデータをもとにシミュレーションを行い、現在論文作成中である。
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今後の研究の推進方策 |
潜在性致死性不整脈疾患患者において、遺伝子変異特異的顕性化因子を明らかにし、さらに致死性不整脈発症メカニズムを解明すべく、症例の集積、遺伝子解析、同定された変異の機能解析を継続する。 我々は、心電図上著明なU波を有し、洞性徐脈/洞機能不全を合併し、運動時に致死性不整脈による心イベントを発症した症例(40歳、女性)を経験した。家系調査の結果、姉が運動時に突然死(35歳時)し、父親と父方叔母は洞機能不全でペースメーカー移植術をうけており、心電図上著明なU波を有していた。本症例は、Andersen-Tawil症候群(心電図上著明なU波)とカテコラミン誘発性心室頻拍(運動時の心イベント、洞性徐脈/洞機能不全)の特徴を併せ持つが、心電図上著明なU波、洞機能不全、運動時の心イベント発症を併せ持つ症候群の報告はなく、新たなdisease entityである可能性がある。我々は、発端者と上記家族にKCNJ2-E118Dを同定し得た。今後は本変異の機能解析を行う予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
前年度同様に、本年度も新規の潜在性致死性不整脈疾患患者の同定は少なく、臨床データの集積及び遺伝子解析に要する費用は予想より少ない額で行うことができたため。
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次年度使用額の使用計画 |
しかし、すでに同定されている遺伝子変異で機能解析未施行のものもあり、次年度使用額は、パッチクランプ実験に関する消耗品(cos7細胞、Grass Capillaryなど)として使用する予定である。
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