研究実績の概要 |
左室収縮不全に対する治療効果のエビデンスは近年蓄積されつつある。左室収縮能が保たれた心不全の多くが左室拡張不全を合併する事が知られているが、左室拡張不全に対する有効な治療エビデンスは示されておらず、新規の治療法開発が求められている。近年の研究では、左室拡張不全の病態に冠動脈血管内皮機能低下が深く関与している可能性が示されている。標的臓器以外の血管で虚血再灌流を繰り返すremote conditioningは、血管内皮機能改善効果が期待される治療法であり、血管内皮機能改善による心筋リモデリングの抑制さらには拡張不全の改善への良好な結果が見込まれるとの仮説を持ち、収縮能の保たれた心不全に対するremote conditioningの臨床的効果についての検討を行った。28年度末までに30例が登録(remote conditioning群 15例、コントロール群 15例)が登録され、最大2年間の経過観察を行った。複合エンドポイント(全死亡、心不全再入院)の発症については、両群での明らかな差は認められなかった(remote conditioning群; 5例 [33%]、コントロール群; 8例[53 %]、p=0.27)。心不全治療に対する反応性を脳性ナトリウムペプチド(BNP)、心筋トロポニンT(troponin T)の入院期間中での経時的変化を比較すると、BNP (remote conditioning群 -68+/-17%, コントロール群 -34+/-68%, p=0.07)、Trop-T (remote conditioning 群 -26+/-30%, コントロール群 13+/-59%, p=0.03)と、心不全バイオマーカーの改善がremote conditioning群で良好な傾向が得られた。
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