研究課題/領域番号 |
26461062
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
池田 宇一 信州大学, 学術研究院医学系, 教授 (30221063)
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研究分担者 |
宮下 裕介 信州大学, 医学部附属病院, 准教授 (70569590)
柴 祐司 信州大学, 医学部附属病院, 講師(特定雇用) (70613503)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 末梢動脈疾患 / 血管再生療法 / 脂肪組織由来幹細胞 |
研究実績の概要 |
私共が開発した骨髄幹細胞移植による血管新生療法は重症虚血肢の治療に有効で世界中で実施されてきているが、骨髄幹細胞の採取に全身麻酔を必要とするため患者の負担が大きく、また再移植も困難である等の問題点がある。そこで、骨髄幹細胞に代わる新たな治療細胞源として、局所麻酔下で簡便かつ大量に採取が可能な脂肪組織由来幹細胞に着目した。 本研究では、(1) 重症虚血肢患者を対象に脂肪組織由来幹細胞を用いた血管新生療法の臨床試験を実施するとともに、(2) 虚血性心疾患に対する脂肪組織由来幹細胞移植の有用性を基礎研究により検証する。 平成26年度は重症虚血肢に対する血管新生療法の臨床試験を開始した。対象は、25 歳以上80 歳未満のFontaine 分類III~IV 度の末梢動脈疾患(閉塞性動脈硬化症、バージャー病、膠原病)の患者。標準的治療によっても四肢切断が回避できない重症虚血肢患者のうち、循環器内科医、心臓血管外科医、形成外科医、血液内科医で構成される検討委員会で脂肪組織由来幹細胞移植の適応と判断され、インフォームド・コンセントが得られた患者に対し、平成26年度は4名の患者に対して本治療を実施した。 方法は、手術室において局所麻酔下に腹壁皮下脂肪組織を250g吸引し、セルーション遠心分離器により脂肪組織由来幹細胞を分離した(所要時間は1~2時間)。分離された幹細胞を直接四肢の虚血部位40~50ヵ所に筋注・移植した。治療効果の判定は、治療前、治療1ヵ月後および 6ヵ月後に、四肢切断回避、皮膚潰瘍面積、皮膚酸素分圧、足関節/上腕血圧比、末梢動脈造影所見、QOL スコア、6分間およびトレッドミル歩行試験で評価していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
重症虚血肢患者を対象に脂肪組織由来幹細胞を用いた血管新生療法の臨床試験を開始でき、おおむね順調に進展している。今後はさらに症例数を増やす必要がある。信州大学医学部附属病院では、末梢動脈疾患の治療に特化した寄附講座(閉塞性動脈硬化症先端治療学講座)を開設しているため、常に10名前後の末梢動脈疾患患者が入院しており、引き続き症例のリクルートを行っていく。さらに、平成27年度から開始する虚血性心疾患に対する脂肪組織由来幹細胞移植の有用性を検証する基礎研究の準備も順調に進展している。
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今後の研究の推進方策 |
平成27年度は、引き続き重症虚血肢患者を対象に脂肪組織由来幹細胞を用いた血管新生療法の臨床試験を実施するとともに、虚血性心疾患に対する脂肪組織由来幹細胞移植の有用性を基礎研究により検証する。 従来の虚血性心疾患に対する骨髄幹細胞移植治療の臨床試験の結果は、動物実験での治療効果と比べると予想外に低く、その要因として移植骨髄幹細胞数が十分でなかった可能性が指摘されている。実際にMeluzinらは心筋梗塞患者において、低用量細胞治療群(10x10^6)と高用量細胞治療群(10x10^7)とを比較し、高用量治療群でのみ心収縮力の改善が認められたと報告している。脂肪組織由来幹細胞は大量に採取することができ、虚血心筋に対して高用量での投与も可能である。そこで本研究では、ラットの心筋梗塞モデルを用い、GFPトランスジェニック・ラットの脂肪組織由来幹細胞(10x10^6~10x10^8)を移植し、移植4週間後に血管新生が誘導され心筋虚血および心機能が改善するか、またその効果の移植細胞用量依存性について明らかにする。心筋虚血の評価は病理学的に、心機能の評価は心エコー検査で行う。さらに大量の幹細胞移植時に懸念される不整脈の発生に関しては、以前に報告した蛍光CaセンサーGCaMP3システムを用いて、移植幹細胞と心筋組織との電気的結合について解析する。また、本治療法の作用機序解明のため、脂肪組織由来幹細胞から発現・産生されるVEGF、HGFを始めとする各種サイトカイン、増殖因子をDNAマイクロアレイおよびサイトカインアレイを用いて網羅的に解析する。また、脂肪組織由来幹細胞を種々の表面マーカーによりソートして、血管分化能についても解析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画よりも安価で研究が遂行できたため、次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度使用額と平成27年度経費はデータ解析用のPC購入にあてるほか、解析用のキット、試薬の購入にもあてる予定である。
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