研究実績の概要 |
本研究は、当院で加療しているDCM 群(10 名)と非DCM 群(15名)に対して以下の検討結果を得た。 ・血中sLOX-1 濃度と心不全マーカーBNP濃度、心エコーから得られたパラメーター(LV Dd Ds EF IVSth PWth)とは相関は認められなかった。 ・心筋生検の組織切片においてLOX-1 発現量は心筋細胞にヒトの検体でも確認できた。しかしながら,心不全重症度とsLOX-1濃度に相関は認められなかった。 上記の患者検体を用いた検討が、データの集積・解析途中となったため、マウスを用いたドキソルビシン(DOX)投与による心筋症モデルにて、LOX-1の生理的役割を明らかにし、論文に投稿発表した。(PLoS One. 2016 May 19;11(5):e0154994.) DOX投与後の野生型マウス(WT)では左室拡大,左心機能低下が認められ,LOX-1ノックアウトマウス(KO)ではこの変化が抑制された。DOX投与により心筋組織でROSの増加,KOではこの変化が抑制され,ROS産生にLOX-1の活性化が必要である事を証明した。DOX投与後のWTではp38 MAPKとNFkBのリン酸化が増強し,KOでは抑制されていた。心筋組織におけるNFkB活性化が,TNF-αやIL-1βの発現を増加させ,炎症反応を引き起こしたと考えられた。DOX投与後のWTで白血球接着因子LOX-1やVCAM-1の発現が増強しており,心筋組織への炎症細胞浸潤が促進し, ROSによる心筋組織の線維化,心筋細胞の退縮も生じた。一方KOでは抑制されていた。DOX投与後のLOX-1活性化によりERK MAPKが不活性化し,心筋細胞の縮小やサルコメア蛋白の退行性変化を導いたことが原因と考えられた。心臓ではLOX-1の発現は心筋細胞で最も多く,心筋細胞のLOX-1発現がDOXによる心筋傷害に重要な役割を果たす事を示した。以上より,LOX-1の欠失により,DOX投与後の心筋線維化,心筋細胞の退行性変化による心機能低下が抑えられるメカニズムを明らかにした。
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