研究実績の概要 |
背景と目的:東日本大震災では、地震の直接被害より、津波による被害が大きいのが特徴である。本津波災害後にどのような循環器疾患がどの程度増減したかについて長期にわたる悉皆性の高い研究は殆どみられない。岩手県の被災地等において、発災後の3~4年間でうっ血性心不全、心筋梗塞、突然死の発症状況を明らかにする。方法:対象地域は岩手県沿岸地域と一部内陸地域とした。対象地域の人口は約34万人(2010年)であり、高齢化率が高く(32%)、人口の異動は比較的少ない地域である。研究期間は2009-2014年である。研究対象地域の全病院において研究期間内の心不全(フラミンガム定義)、心筋梗塞・突然死(WHO-MONICA定義)の発症を登録した。津波被害が大きい大被害地域と少ない小被害地域に分けて検討した。発災前(2009~2010年)と比較して発災年2011年、発災後の2012年以降の発症率の変化を標準化発症比(SIR)を用いて比較した。結果:研究期間内に心不全入院は2,059例、心筋梗塞入院・突然死(発症から24時間以内)は2,733例が登録された。心不全の発症は大被害地域では、2011年 SIRは1.67でその後も高い値が持続していることが明らかとなった。一方、小被害地域ではそのような増加はなかった。また、心筋梗塞(非突然死)は津波被害の大小にかかわらず明らかな増減はみられなかったが突然死は大被害地域では2011年にSIR 1.79と増加し、その後も高い値であることが明らかとなった(2012 = 2.06; 2013 = 2.02)。小被害地域では、このような突然死の増加は明らかではなかった。まとめ: 発災後数年を経ても津波被害の大きかった地域では心不全および突然死の発症率が増加している。さらに、追跡期間をさらに延ばして研究を継続する予定である。
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