研究課題/領域番号 |
26461091
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研究機関 | 東海大学 |
研究代表者 |
網野 真理 東海大学, 医学部, 准教授 (10407976)
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研究分担者 |
吉岡 公一郎 東海大学, 医学部, 教授 (30246087)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 除神経モデル / 交感神経過増生 / MIBG / 致死性心室不整脈 |
研究実績の概要 |
背景と目的: 心臓突然死 (SCD) の主要原因である致死性心室不整脈 (VT/VF) の発生には心臓交感神経の分布異常が関与する。ヨウ素123メタ・ヨードベンジルグアニジン(123I-MIBG)検査は除神経領域の同定に有用だが、神経過増生を描出することは困難である。今回、MIBG uptake正常領域は過増生が存在するとの仮説を立て、シナプス密度および電気的不安定性を検討した。 方法: 健常なNew Zealand White rabbitを用い (n=18, 雄)、フェノール塗布による除神経モデルを作成 (n=9). 対照は生理的食塩水塗布によるシャムオペモデルとした (n=9)。術後4週の時点で シャム・フェノールモデルのそれぞれ4例において鏡面心筋病理切片を用いたMIBGおよび交感神経マーカー(GAP43, TH)の免疫染色を行い、残り5例で電気生理学検査を施行した。 結果: 除神経モデルにおいて (1) MIBG取り込み率の局所ばらつきは、MIBG低下領域内よりも正常領域との境界領域で最大となった。(2) 免疫染色において、GAP43シグナルはMIBG低下領域において不均一に発現し、uptakeが正常な領域で亢進が認められた。THシグナルは MIBG正常領域を含めた左室全体で発現の亢進が見られた。(3) 電気生理学的検査では、ノルエピネフリン投与による交感神経刺激によってMIBG 低下領域におけるARI-dispersionが増大した。星状神経節刺激では、MIBG正常領域においてもARI-dispersionが増大し、致死性心室不整脈がより高頻度に誘発された。 結語: 除神経が存在する心筋では、MIBG減衰領域のみならず正常領域においても過増生が存在した。異質な神経リモデリングがMIBGで一見正常な非除神経領域まで広がり、電気的不安定性に寄与する可能性を示唆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
今年度は当初予定していた実験の解析をすべて終了し、その研究成果を英文論文の形で作成した。論文は現在投稿中で、研究の成果発表は国際学会へ抄録登録中である。 複数の大規模なランダム化多施設研究で、突然死の一次予防のために植込み型細動除去器(ICD)の使用が推奨されている。PAREPET試験は、局所で除神経された心筋量が突然の心停止による原因別の予測因子であったことを証明する最初の研究である。対象はICDによる一次予防植え込み資格がある204人の虚血性心筋症患者(LVEF35%以下)で、突然の心停止の予測因子は、PET交感神経除神経、LVEDVインデックス、クレアチニン、アンギオテンシン阻害薬無投与であった。 反対に、MIBGイメージングはICDの一次予防を考慮されている患者群で、低リスク患者を特定するのに用いられた。 これらの調査結果は、全体的な神経分布よりもむしろ局所的な除神経評価が不整予測に有用で、正確なICD治療を可能とすることを示唆した。ただしPAREPET試験のlimitationは、急性心筋梗塞と非虚血性心筋症、左室収縮能の保たれた患者が除外された点である。 我々の研究においては、除神経が存在する心筋では、MIBG減衰領域のみならず取り込み正常領域においても過増生が存在することを明らかにした。非除神経領域における過増生の存在は、異質な神経リモデリングがMIBGで一見正常な領域まで広がって、電気不安定性に貢献することを示唆する。これまで、正常領域にこうした変化がみられる可能性を論じた研究は存在しない。123I-MIBGイメージングを更に発展させ、神経リモデリングの新しい評価法を開発することが要求される。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は4年計画であり、計画的に研究を進めることが出来ている。 特に今年度は、交感神経過増生が除神経された領域に隣接して存在し、MIBG取り込みのある場所とない場所の差分は、両者の境界領域で最大であることを発見した。これはつまりMIBGの取り込みが一見正常な部分に、神経過増生が起きている可能性を十分に考慮しなければならないことを示唆している。しかしMIBG uptake最大部分を100%として描出されることから、除神経や神経分布を描出することは可能でも、神経過増生を反映することができない。123I-MIBGイメージングは、交感神経過増生と関連する不整脈リスクを過小評価する可能性を有するという臨床的に重要なメッセージを論文発表や口述発表を通じて周知していきたいと考えている。 交感神経支配のイメージングは、123I-MIBGとSPECT技術の導入で、1980年代に最初に行われた。 1990年には新しく発達した合成NEアナログのカーボン-11(11C)ヒドロキシエフェドリン(HED)を使った陽電子放射断層撮影(PET)イメージングにより、シナプス前ニューロンの機能を非侵襲的に評価するための定量的計測法が提供された。今後の研究の推進方策として、非除神経領域における正確な自律神経イメージングの獲得をすることで、血流の保たれた心筋における不整脈死のリスクの層別化を目指したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究の学会発表に先行して論文作成を行ったため、旅費として計上した交付額の使用が予定を下回った。
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次年度使用額の使用計画 |
論文受理をまって、同年に学会発表を行う予定である。 第一に成果報告をより広く効率的に行うため、繰り越し額は旅費にかかる費用として充当したい。 第二に、英語での正確な研究報告を行うため、native による抄録ならびに論文の校正費用として研究費を使用したい。
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