研究実績の概要 |
たこつぼ心筋症(Takotsubo cardiomyopathy, TCM)は、大災害や外科手術などの急激なストレス状態で心筋梗塞様の胸痛と心電図変化及び心筋酵素の逸脱を呈し、左心室心尖部を中心とした収縮低下をきたす疾患である。急性心筋梗塞との鑑別には、冠動脈造影にて閉塞病変を認めないことを確認する。発生機序は未だ不明であるが、発症時の身体的/ 精神的ストレスと交感神経活動亢進に伴うカテコラミンの過剰分泌によるものが最も有力である。 我々はストレス下で分泌される高濃度のアドレナリンが、β2アドレナリンレセプター(β2AR) におけるGs protein signalingからGi protein signalingへと移行し、陰性変力作用を生ずる作用に注目し、TCM患者17名(女性11名)と健常人5名(女性4名)を本研究に登録してストレス下のカテコラミンと自律神経反応について検討を行った。 自律神経機能検査では、TCM患者は健常人に比べ過呼吸後の収縮期血圧低下が強かったが(-16.5mmHg vs. -5mmHg)、バルサルバ比、洞性不整脈比は同等であった。精神的ストレス負荷時(暗算負荷、スピーチテスト)の前後においても、TCM患者は血漿ノルアドレナリン値の上昇が健常者と比して高い傾向にあった(185.5pg/ml vs. 86pg/ml)。同じくTCM患者で、ストレステスト前後に血漿アルドステロン濃度の有意な上昇が認められた。TCM患者、健常人ともストレス検査の前後の血圧、心拍には有意差を認めなかった。現時点で5名のTCM患者においてカテコラミン受容体遺伝子の変異が確認された。特に変異が多く認められたものはADRA1A, ADRA2B, ADRB1, DRD2, DRD4であった。引き続き残るアドレナリン受容体の多型についても臨床データと関連させた検討を進める方針である。
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