これまでに我々は、心臓由来ホルモンであるナトリウム利尿ペプチド(ANP・BNP)系が破綻したマウス(GC-A受容体遺伝子欠損マウス:GC-A-KO)が授乳期に周産期心筋症様の心機能低下を伴う顕著な心肥大・心線維化を呈することから、内因性ANP・BNP/GC-A系が授乳期に心保護的に作用していることを明らかにした。また、授乳期にGC-A-KOにおいて著増するアルドステロンが、授乳期心肥大を惹起する原因因子である可能性を見出した。本年度は、GC-A-KOにおける授乳期心肥大へのアルドステロンの関与を明らかにするため、授乳期にのみ選択的アルドステロン阻害剤を投与することで、授乳2週目におけるGC-A-KOの授乳期心肥大変化が抑制され得るか否かについて検討を行った。併せて、周産期心筋症発症への内因性ナトリウム利尿ペプチド系の関与を明らかにするため、国立循環器病研究センター周産期・婦人科部と共同で、周産期心筋症患者ゲノムを用いてナトリウム利尿ペプチド関連遺伝子の遺伝子多型解析を実施した。遺伝子多型解析については、過去に高血圧や心肥大との関連が報告されている、ナトリウム利尿ペプチド関連遺伝子の一塩基多型について検討を行った。 授乳期にのみ選択的アルドステロン阻害剤を投与しても、GC-A-KOの血圧は有意な低下を示さなかった。一方、GC-A-KOの授乳期心肥大変化は有意に抑制された。このことから、アルドステロンがGC-A-KOの授乳期心肥大の原因因子であることが裏付けられた。また、遺伝子多型解析の結果、ナトリウム利尿ペプチドクリアランス受容体(Npr3)遺伝子のマイナーアレルを有する人の割合が、正常産婦に比し、周産期心筋症患者で有意に高いことが明らかとなった。
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