研究実績の概要 |
本研究の目的は、がん症例に対して投与される血管新生阻害薬により生じる心血管系副作用(心毒性)について、その早期指標と分子機構を解明することである。研究代表者らは、2009年から2011年に血管新生阻害薬ベバシズマブ(Bev)を投与されたがん患者197名(平均年齢63±11歳、大腸がん116名、肺がん68名、乳がん13名)における心毒性(高血圧、蛋白尿)の発現について後方視的観察を行い、高血圧を76名(38.6%)、蛋白尿を82名(41.6%)に認め、高血圧を発症した症例のうち46名はBev投与3ヶ月以内、さらに1週間以内に血圧上昇が14名に認められることを明らかにした。血圧上昇例では、Bevの平均投与回数20.0±15.1回、総量10,491±8,768mgと血圧非上昇例に比べて、Bev投与期間、投与総量が有意に上回っていた。 そこで、Bevによる心毒性の早期指標および分子機序を明らかにするため内皮細胞の増殖・成熟に関与する増殖因子(VEGF、HGF、FGF-23)に着目し、Bev投与がん患者(7名)におけるBev投与前後の血清における変化を解析した。Bev投与前と投与1週間後で比較したHGFおよびFGF-23の濃度は有意な変化を認めなかったが、VEGFは投与前 23.7±5.2 pg/mlから投与後 46.4±10.2 pg/ml (p<0.001)に有意な上昇を認めた。一方、今回の解析から除外した症例の中で、投与前にVEGFが高値(650 pg/ml)を示し、Bev投与1週間後に66 pg/mlに低下した症例があり、Bev投与直後に一過性の高血圧を示しており、興味深い症例もあった。これらの結果はBev投与前後で血清VEGFがダイナミックに変動していることを示しており、心毒性発症の早期指標、分子機序として今後さらなる検討が必要である。
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