研究課題/領域番号 |
26461104
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
廣野 暁 新潟大学, 医歯学総合病院, 特任教授 (40401765)
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研究分担者 |
小澤 拓也 新潟大学, 医歯学系, 助教 (70467075)
須田 将吉 新潟大学, 医歯学総合病院, 医員 (70714509)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 冠動脈石灰化 / デノスマブ |
研究実績の概要 |
昨年度に引き続き、本年度もパイロット研究としてデノスマブ投与による冠動脈石灰化進展抑制効果および薬剤安全性の検討を行った。骨粗鬆症を合併した冠動脈疾患患者12症例に対してデノスマブ投与を行い、うち10例において評価可能であった。デノスマブ投与により骨密度は0.662±0.11 g/cm2 から0.679±0.12 g/cm2まで改善し、その改善率は2.5%であった。主要評価項目である 冠動脈石灰化(CAC)スコアは366.5±438.0から362.9±435.1まで低下、CACスコア改善率は1.8%と有意差はつかないものの改善傾向がみられており、石灰化進展抑制のみならず、石灰化を改善する可能性があるという驚くべき結果が得られた。さらに骨密度改善度とCAC改善率には相関関係があり、本薬剤が骨粗鬆症に有効であれば、冠動脈石灰化に対しても抑制効果を示す可能性が示唆された。 副次評価項目として心血管事故(心臓死、非致死的心筋梗塞、血行再建術の施行、脳卒中)の出現はなく、冠動脈疾患患者に対するデノスマブ投与の安全性に問題はなかった。 内膜中膜複合体厚(IMT)は5例の患者のみでの解析であるが、右IMTが0.872mmから1.088mmに、左IMTが1mmから1.32mmに悪化した。心臓足首血管指数(CAVI)に関しては4例の解析のみであるが、右CAVIが10.7から9.5に改善したものの、左CAVIは7.5から9.1へと悪化した。IMT、CAVIに関しては現在デノスマブ非投与患者における自然歴を調査中である。また引き続き並行してデノスマブ投与患者の血球中のRNAを抽出し、老化マーカー、血管炎症マーカーなどの測定を開始している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究は新規骨粗鬆症治療薬デノスマブの血管石灰化抑制作用についてのパイロット試験として、20症例を目標に設定したが、実数は12症例にとどまっている。この理由として、デノスマブの適応が女性の骨粗鬆症患者に限定されていることから、研究対象を冠動脈疾患の有病率が男性に比して低い女性に限定せざるを得なかったことが一因として挙げられる。 また本研究では糖尿病合併症例が少ない傾向にあるが、骨粗鬆症の診断に有用とされる骨密度が糖尿病患者においては低下しにくいことが最近報告されており、糖尿病患者では骨密度測定のみでは骨強度の推定が困難である可能性がある。本研究では骨密度の低下を登録基準としたが、本来骨粗鬆症治療薬が必要とされる椎体または大腿骨近位部に脆弱性骨折がある症例も含めるなど、解析対象数を増やすための工夫が必要と考えられた。 さらに本研究は当院と関連施設2病院で行っているが、関連施設においてはCAVIなどの装置がない、RNA抽出用の採血ができないなどの理由で十分なデータが取れず、副次評価項目の例数が少ないことも進行遅延に関与している。
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今後の研究の推進方策 |
今年度も引き続きパイロット試験の患者登録をすすめ、デノスマブによる血管石灰化抑制効果ならびに冠動脈疾患患者に対する薬剤安全性について検証を重ねるとともに、並行してデノスマブ投与患者の血球からRNAを抽出し、老化マーカー、血管炎症マーカーなどを測定することで、血管石灰化抑制機序を明らかにする。 また、骨粗鬆症の改善が得られた患者では冠動脈石灰化スコアの改善が認められるという興味深い結果も得られており、デノスマブの治療効果があらかじめ予測できるような分子マーカーやその分子メカニズムの解明ができれば、治療上極めて有用と考える。登録症例を増やし、有効例と無効・不応例についての検討も行っていきたい。 デノスマブと骨粗鬆症に対する標準治療である新世代ビスホスホネート系薬剤との無作為化比較試験へつなげるため、冠動脈石灰化スコアやIMT、CAVIなどの自然歴、これらに対して新世代ビスホスホネート系薬剤がおよぼす効果についても検討を進めたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究計画立案の段階でパイロット研究として登録患者数を20症例に設定したが、上述の理由により実数は12症例にとどまり、多施設共同研究の実施に至らない状況であるため次年度使用額が生じた。
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次年度使用額の使用計画 |
血液試料を用いたRANKシグナル分子、老化マーカー、血管炎症マーカーの解析に用いる試薬・消耗品の購入、データ解析に用いるコンピューター、画像解析ソフトの購入、ならびに研究成果の学会発表・論文作成に要する費用等に充当する。
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