研究課題
欧米の臨床試験によってトランス脂肪酸が心血管病の発症を増加することが証明され、トランス脂肪酸の食品中含有量や摂取量が規制されている。しかし、我国ではトランス脂肪酸の血中濃度や動脈硬化リスクとしての意義は不明である。そこで、我々は日本人のトランス脂肪酸血中濃度を直接測定し、日本人における冠動脈疾患との関連性を解明するとともに動物実験によりその機序を解明することを目指した。1. 血中トランス脂肪酸(エライジン酸、リノエライジン酸)は、年齢と逆相関し、腹囲と正相関した。また、血中LDL-C、トリグリセリド値と正相関し、HDL-C値と逆相関した。年齢における4分位で冠動脈疾患患者と非冠動脈疾患患者の血中濃度を比較したところ、若年群では非冠動脈疾患患者と比べて冠動脈疾患患者においてトランス脂肪酸濃度が有意に高値であった。以上より、日本人においてもトランス脂肪酸血中濃度が冠動脈疾患の促進因子となることが示された。2. LDL-R KOマウスを、トランス群(5%エライジン酸)、シス群(5%オレイン酸)、対照群に分け、8週間負荷後、血中の脂質・脂肪酸プロファイル・酸化LDL・各臓器中の炎症性サイトカインを測定した。トランス群では、シス群および対照群と比べて、血清コレステロールおよび中性脂肪濃度には変化がなかったが、血中酸化LDLが増加していた。また、トランス群では、動脈硬化病変が増大しているとともに、大動脈壁の酸化ストレスが亢進していた。さらに、各組織中の炎症性サイトカイン濃度の上昇が認められた。以上より、トランス脂肪酸は脂質とは独立した機序で血管の酸化ストレスを促進することが示された。
2: おおむね順調に進展している
臨床研究、動物実験ともに順調に進行している。作用機序を完全に解明できていない部分があり、今年度の検討課題としたい。
臨床研究では、トランス脂肪酸が冠動脈病変の性状(複雑性)や冠動脈疾患の予後に及ぼす影響を検討する予定である。動物実験では、培養細胞を用いて、トランス脂肪酸による酸化ストレスの促進の機序を明らかにする予定である。
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Mol Nutr Food Res.
巻: 59 ページ: 729-740
10.1002/mnfr.201400537