研究課題
植物油の加工過程で副産物として生じるトランス脂肪酸の摂取が、心血管病の発症を増加することが証明され、欧米では規制対象となっている。しかし、多くの欧米の臨床研究では、トランス脂肪酸の危険性は血中濃度ではなく推定摂取量に基づいて評価されている。また、我国ではトランス脂肪酸の意義は不明である。昨年度は、日本人のトランス脂肪酸血中濃度を測定し、若年になるほど冠動脈疾患患者で血中トランス脂肪酸濃度が高値であることを証明した。今年度は、冠動脈疾患における動脈硬化プラーク性状と血中トランス脂肪酸濃度との関連性を検討した。184人の冠動脈疾患患者において、冠動脈造影時に光干渉断層法(OCT)を用いて動脈硬化病変の組織性状を評価した。全ての患者は、二次予防のため冠危険因子が適切に管理されており、78%でスタチンが投与されていた。しかし、解析した232病変のうち57病変にプラークの脆弱性の指標である菲薄化した線維性被膜(TCFA)を認めた。TCFAを有する患者は、有さない患者に比べて、トランス脂肪酸(エライジン酸)、トリグリセリド、RLP-Cの血中濃度が有意に高値であった。一方、血中LDL-C濃度には差がなかった。多変量解析ではエライジン酸はTCFAの規定因子であった。すなわち、内服治療により古典的な危険因子が適切に管理されている冠動脈疾患患者において、トランス脂肪酸が冠動脈プラークの脆弱性と関連し残余リスクとなっていることが示唆された。LDL受容体欠損マウスに高エライジン酸食と高オレイン酸食(対照)を負荷し、脂質代謝と動脈硬化病巣を解析した。エライジン酸はオレイン酸に比べて、脂肪組織、筋肉、肝臓、血管など多くの臓器に蓄積する傾向があり、局所で炎症性サイトカインの発現亢進とNADPH oxidaseの活性化により炎症と酸化ストレスを惹起し、動脈硬化を促進することが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
臨床研究、基礎研究ともに順調に進行している。臨床研究では症例数を増やすことと、トランス脂肪酸が冠動脈疾患の予後(心血管イベント)に及ぼす影響を前向きに検討している。とくに予後の検討には相応の時間がかかることが予想される。基礎研究では、トランス脂肪酸が炎症や酸化ストレスを亢進させる分子機序(関与する分子や細胞内シグナル伝達機構)を明らかにするための実験をしている。
1. 臨床研究ではさらに症例数を増やし、トランス脂肪酸が冠動脈プラークの性状に及ぼす影響を明らかにする。また、トランス脂肪酸が冠動脈疾患の予後に及ぼす影響を検討中である。2. トランス脂肪酸の血中濃度は摂取量を反映すると考えられるが、腸管における吸収や、体内における分解代謝機構によっても制御されている可能性がある。そこで、トランス脂肪酸の血中濃度に影響を及ぼす病態と薬物療法を明らかにすることを目指している。まず、既存の脂質代謝異常症や糖尿病治療薬の投与により、血中トランス脂肪酸濃度が影響を受けるかを検討する。また、レムナントの代謝異常とトランス脂肪酸血中濃度との関連性を明らかにする。3. 基礎研究では、トランス脂肪酸が炎症や酸化ストレスを亢進させる分子機序(関与する分子や細胞内シグナル伝達機構)を解明する予定である。とくに、トランス脂肪酸が血管構成細胞(内皮、平滑筋、マクロファージなど)においてToll-like受容体を介してNADPH oxidaseを活性化することに着目し、その分子メカニズムを解明する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (2件) (うち査読あり 2件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 1件、 招待講演 2件)
Circ J
巻: 79 ページ: 2017-2025
10.1253/circj.CJ-14-0750
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