研究実績の概要 |
コレステロール逆転送系の最初のステップは細胞からのコレステロール引き抜き(C-efflux)であり、HDLの最も重要な機能と言われている。近年、冠動脈疾患の発症率は、血清HDL-C値よりもHDLによるC-efflux能と強い負の相関があることが報告されている。C-efflux能は、現在、ラジオアイソトープ(RI)で標識されたコレステロールを用い測定されている。我々は、臨床現場でC-efflux能測定を普及させるには脱アイソトープによる測定系が必要と考え、安定同位体を用いたC-efflux能測定系を構築した。J774細胞に2H7-コレステロールを取込ませ、cAMPで細胞膜上のABCA1を活性化後、患者血清から調製したアポB除去血清とインキュベートした。インキュベート後の培養上清からコレステロールを抽出し、Q-TOF MSを用い2H7-コレステロールを定量した。その結果、アポB除去血清濃度及びインキュベート時間依存的に培養上清中の2H7-コレステロール量の上昇が確認された。3種類の同一検体を同時に5回測定したときの再現性は、CV7.3%から9.5%となり良好な精度となった。血清HDLコレステロールが36から94 mg/dl (61.7±18.0mg/dl)の外来患者41名のC-efflux能を安定同位体法、RI法、及びBODIPYコレステロールを用いる蛍光法で測定した。安定同位体法でのC-efflux能は、RI法でのC-efflux能と強い正の相関を示し、蛍光法とRI法との相関性よりも著しく強いことが判明した(r=0.73, p<0.0001 vs. r=0.55, p<0.001)。以上の結果から、今回確立した安定同位体を用いたC-efflux能測定系は、RI法によるC-efflux能測定法の代替法として有用であることが示唆された。
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