研究課題
本研究計画では心臓内のレジデントマクロファージが心臓内の興奮伝導の恒常性維持に重要であり、マクロファージの機能不全が完全房室ブロックを中心とする致死性不整脈発症・個体の死に関係していることを証明し、さらに今後の新しい抗不整脈・抗突然死薬に対する分子標的の発見、薬物の同定を目的としている。これまでにクロドロネートリポソームの投与によってレジデントマクロファージに障害を加えておくと、肺動脈絞扼(PAB: pulmonary artery banding)によって、完全房室ブロックを発症し死亡するモデルを作成していたが、平成26年度は、より臨床的に頻度の多い心筋虚血による房室ブロックモデルを作成し得た。これはマウスの右冠動脈閉塞によって心筋梗塞を作成すると、通常は全例生存するが、クロドロネートリポソームによってレジデントマクロファージに障害を与えておくと、全例で完全房室ブロックを発症し、死亡するモデルである。心筋梗塞時に完全房室ブロックを発症し突然死するという人での病態を模倣するマウスモデルを新たに作成し得たため、複数の疾患においてマクロファージが突然死に対して防御的に働いていることが明らかとした。特に本研究期間内では心臓マクロファージが定常状態であるいは、心臓ストレス時にどのように抗突然死作用を発揮しているか、分子機序を詳細にを明らかにすべく検討を行っている。特に平成26年度は心筋細胞側の標的分子としてコネキシン40を同定し、さらにその上流の転写因子Tbx5もマクロファージー心筋細胞間の細胞間連携に重要であることを明らかとした。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は心臓マクロファージが心筋細胞、とくに右心房・房室結節付近の心筋細胞の興奮伝導に対してどのように正の調節をしているかに着目して検討した。この結果、野生型マウスの心臓マクロファージの除去によって、心房の遺伝子発現変化を検討したところ、心房内のコネキシン40が選択的に低下していることが明らかとなった。房室結節に強く発現しているコネキシン40は、コネキシン40ノックアウトマウスの検討によってすでに房室ブロックを生じることが明らかとなっており、心臓マクロファージが何らかの因子を出すことによって、心筋細胞が心筋細胞の表面のコネキシン40の発現量を増加させ、房室結節の伝導を維持していることが考えられた。コネキシン40遺伝子は転写因子Tbx5によって発現調節が行われているが、マクロファージはTbx5の発現増加を介してコネキシン40の発現を増加させていると考えられた。さらにこの結果をin vitroで詳細に解析するために、マウス心筋細胞・繊維芽細胞・心臓マクロファージの共培養系を確立させた。心臓マクロファージを共培養に加えたときと加えない時を比較すると、同様に心筋細胞のコネキシン40の発現量はマクロファージを共培養に加えた際に増加していた。このように今年度は、心臓ストレス時にストレスは心臓マクロファージを介して心筋細胞内のTbx5-コネキシン40系を介してギャップジャンクションをタイトにすることによって心筋興奮伝播を強化していることが予想された。
今後、心臓マクロファージがどのように心筋細胞のTbx5またはコネキシン40を増加させるのいかを検討している。方法として、今後の臨床応用への可能性も考え、マクロファージで発現している分泌タンパクの中で、Tbx5, コネキシン40を増加させるタンパクの同定を試みている。具体的には、心臓マクロファージをフローサイトメーターでソーティングし、RNA sequenceによって、発現している分泌タンパクを網羅的に検討し、心筋細胞の培養系に添加または心筋細胞と心臓マクロファージの共培養系にそれらの中和抗体を添付することによって、コネキシン40の発現に関与するマクロファージ由来分泌タンパクの同定を試みる。さらに、マクロファージ除去モデルに同定したタンパク質の補充療法、また、野生型マウスに対して同定したタンパク質の中和抗体を投与することによって、心ストレス時に房室ブロックが生じるか検討していく。また、同定したマクロファージ由来因子が治療に応用可能かどうかも合わせて検討していく。
本年度、交感神経系のマクロファージへの作用を検討するために、アドレナリンβ2受容体コンディショナルノックアウトマウスを作成しているが、その作出が平成26年度中に終了せず、平成27年度になったため、支払がH27年度へ繰り越すこととなった。それに対して、前述の心筋細胞とマクロファージの共培養系の実験において、実験の進行が予想よりも早く、平成27年度に予定していた実験を前倒しで行い、これに実験費用が必要となった。以上の差し引きによって、わずかに繰り越し額が発生した。
昨年度実験動物作出が遅れた分を本年度に行うべく、平成27年度の実験動物(遺伝子改変マウスに対する)費用として使用する。
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