研究課題/領域番号 |
26461142
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研究機関 | 東京医科歯科大学 |
研究代表者 |
田中 由美子(大石由美子) 東京医科歯科大学, 難治疾患研究所, 准教授 (80435734)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 細胞代謝 |
研究実績の概要 |
肥満や糖尿病など生活習慣病に共通した基盤病態として慢性炎症が注目を集めている。慢性炎症の病態ではマクロファージが重要な働きを担う。最近申請者は、マクロファージには炎症刺激を受けると炎症促進から収束へと機能的に変化するプログラムが内在し、その機能変化は細胞代謝と密接に連携していることを見出した。マクロファージは炎症刺激を受けると一過性に解糖系を亢進させて炎症促進形質を示すが、刺激後24時間を経過すると脂質合成が亢進して炎症収束形質を示すようになる。興味深いことに、マクロファージは炎症応答の後期に、オートクリン・パラクリンを介して抗炎症活性を示す不飽和脂肪酸の合成を高めることによって炎症収束形質へと変化すること、炎症応答における細胞代謝と細胞機能は転写とエピゲノムの変化によって迅速に制御されることを明らかにした。すなわち細胞レベルでは、マクロファージの免疫応答が炎症刺激を契機として時間的に調節される細胞代謝と密に連携し、細胞レベルでの「免疫-代謝連関」が組織・個体レベルでの免疫系と代謝系の連携の基盤となると考えられた。一方、糖尿病の発症や進展の背景に、骨格筋量と質の低下やマクロファージの機能異常が重要である。骨格筋は身体最大のエネルギー消費器官で、常に再生と修復を繰り返している。また、骨格筋の再生を担う骨格筋幹細胞は筋損傷後、経時的に細胞代謝や機能の異なるマクロファージと相互作用することが正常な筋修復に必須である。肥満や糖尿病では、組織微小環境が変化し、マクロファージの細胞代謝に影響を及ぼし炎症収束に向かう機序に変調を来している可能性が高い。そこで炎症刺激を契機として細胞代謝と機能を変動させる時空間的制御機構を明らかにすることができれば、細胞代謝に介入してマクロファージの炎症収束形質への転換を促し、炎症の慢性化を防ぐ抗生活習慣病治療法の開発が可能と考え、現在も検討を続けている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述の研究成果に関して論文がほぼ完成し、現在最終の確認を行っている。これまでの研究成果を踏まえて、今後は免疫系と代謝系の連携のメカニズムの変調や破綻が病態の発症へと進展するメカニズムを解明すべく、研究を続けている。したがって、現在までのところ本研究の目的は順調に達成しつつあると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
マクロファージは炎症応答の過程で細胞代謝を機能を変化させる自律的な機序を内在する。本研究では、肥満・糖尿病による微小環境変化がその自律的な機序に変調を及ぼし、炎症の慢性化を引き起こす分子機構を以下のような検討を通じて明らかにする。 (1) 細胞代謝と免疫応答との連携が肥満や糖尿病に伴う全身の代謝異常の影響を受けて変調をきたし、炎症の収束が妨げられて病態の悪化を招くのではないかとの仮説を、従来の分子生物学的手法とメタボローム、リピドミクス、グローバルなトランスクリプトーム解析を組み合わせて検証する。特に、マクロファージを取り巻く組織微小環境中の脂肪酸組成の病態における変動がマクロファージの細胞代謝と機能に与える影響を明らかにする。また、細胞機能制御の鍵となる、炎症刺激によるマクロファージに選択的な新規のSrebp1活性化機構を同定し、創薬の標的となる候補分子を探索する。 (2)マクロファージは、炎症応答の過程で抗炎症性脂質群の産生を変化させ、オートクリン・パラクリンを介して細胞機能を調節し炎症収束形質へと自律的に変化する。そこで、細胞代謝が時間的に制御される分子機構を明らかにする。細胞内で体内時計を司る転写因子Bmal1が細胞代謝の制御にも重要な役割を果たすのではないかとの仮説のもと、Bmal1を基軸とした炎症応答における細胞内脂質代謝の時間的制御機構をリピドミクス・メタボローム・トランスクリプトーム解析を組み合わせて統合的に理解する。 (3) マクロファージの細胞代謝に介入し炎症応答を制御する治療・予防法の開発へのトランスレーションを目指す。 上述の検討の結果見いだされた候補となる機序については、骨格筋の損傷・修復モデルを用いて有効性の検証を行い、早期の臨床応用の実現をはかる。
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次年度使用額が生じた理由 |
本研究では、炎症を惹起する化合物を細胞に投与しその反応を見る実験を複数回行った。最適な反応条件を決めるため、条件検討実験を複数回予定していたが、予想より早く最適な条件を見つけることができたため、実支出額が予算額を少し下回る結果となった。
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次年度使用額の使用計画 |
次年度には疾患モデルマウスを用いた検討を予定しており、動物実験には多くの予算が必要と見込まれることから、翌年分として請求中の助成金とあわせて本差額を充当する。
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