研究課題/領域番号 |
26461145
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
吾郷 哲朗 九州大学, 大学病院, 助教 (30514202)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | NADPH oxidase / 活性酸素種 / 血管内皮細胞 / ミトコンドリア / 低酸素 / Nox4 / HIF-1 / 炎症 |
研究実績の概要 |
活性酸素種(ROS)は種々のタンパク質を酸化し,酵素活性や細胞内シグナル伝達を修飾する.生理的条件下において,ROSは主としてATP産生の副産物としてミトコンドリアで産生されるが,種々の病態下においてはNADPH oxidase (Nox)などのROS産生酵素が重要な働きをする.Nox familyタンパク質のうちNox4は心血管系細胞に高発現し,低酸素や飢餓状態で発現が増加する.我々は脳虚血や下肢虚血病態における血管壁細胞Nox4の発現変化とその意義について,培養細胞や遺伝子改変動物を用いて研究を行なっている. 我々のグループでは,脳血管内皮細胞などの心血管細胞においてNox4がミトコンドリアに存在しうることを,細胞染色や細胞分画によるウエスタンブロット・活性酸素種測定により明らかにした.また,Nox4を過剰発現させるとミトコンドリアPTPが開口し脱分極が生じることを明らかにした.一方,microarrayの結果からNox4過剰発現によりHIF-1α, NFkBなど複数の転写因子が活性化される可能性を見出した.HIF-1αの安定化については,これをヒドロキシル化し分解を促進するPHD2の発現抑制が原因の一つと考えられること,NFkB活性化については,IKKのリン酸化亢進,IkBの分解亢進,NFkBのリン酸化・活性化亢進が順次生じることを明らかにした.しかしながら,Nox4のミトコンドリアへの局在とこれらの転写因子活性化を結ぶ分子機構は依然として不明のままであり検討を継続している.一方,Nox4は血管新生や組織修復において決定的な役割を果たすことが明らかになりつつある.その機序の一つとしてTGFβ産生増加の可能性を見出している.この応答ではNox4により産生されるH2O2がTGFβ precursorからactive formへの変換を促進している可能性を見出している.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
内皮細胞にNox4が発現し,1)低酸素に反応して発現が増加すること,2)ミトコンドリアに局在しうること,3)血管新生・組織修復に関連する種々の転写因子やKeyタンパク質の活性を制御すること,などについて概ね明らかとし,Nox4の分子学的な意義についてもある程度理解を深めることができている.しかしながら,最も知りたいことの一つであるNox4のミトコンドリアへの局在と転写因子活性制御をつなぐ分子機構や,並行してみられる複数の細胞現象・応答が単なる並行現象なのか,相互に影響を及ぼし合っているのか,などについては依然不明のままである.これらの分子機構についてより踏み込んだ検討を行っていく予定としている.
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今後の研究の推進方策 |
これまでの我々の検討を含め,Nox4と低酸素応答に強い関連性があることは間違いないと思われる.KOマウスの検討などから,Nox4は生体応答に絶対必須の分子ではないようであるが,低酸素時に発現誘導され低酸素応答を増強する重要な修飾分子であると思われる.低酸素時には,ミトコンドリア機能を抑制し,酸素消費(によるATP産生)とこれに附随して生じるROSの発生を抑制する必要がある.Nox4は,ミトコンドリアに局在し,低酸素応答を増強させることから,これらの応答の橋渡しを行なう分子である可能性がある.一方,Nox4のin vivoにおける効果は病態モデルによっても異なる.急性虚血か慢性虚血,あるいは,脳と下肢などの臓器の違いによってももたらす影響が異なる.近年,低酸素下における生体応答に関しては,HIF-1αを中心に詳細な分子機構が明らかとなってきている.低酸素応答にかかわるどの分子に対してNox4が直接的な影響を及ぼすかを明らかにすることで,病態に応じた形でNox4の有益な部分だけを引き出すことができないか検討したいと考えている.このためにも,重要分子の特異的な阻害剤やsiRNAなどを用いたknockdown手法を用いて,重要関連分子一つ一つについて検討を継続する.Nox4は心血管系を中心に多くの細胞に発現しているが,内皮細胞は低酸素に最も強い細胞の一つでありNox4の発現も高いことから,Nox4の役割・低酸素への関わりをより明確にすべき重要な細胞であると考えている.
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次年度使用額が生じた理由 |
研究試薬未購入分と旅費未執行分の計71,255を繰り越した.研究試薬は残高を見ながら無理をしない範囲で研究を進めたため少額繰り越すこととなった.旅費に関しては,共同研究者である大学院生を一名国内学会(日本脳卒中学会)に同伴する予定であったが,不参加としたため一名分の国内旅費が未執行となった.
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次年度使用額の使用計画 |
前年度購入しなかった研究試薬(活性酸素種測定試薬および抗体)の購入代に当てる予定である.
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