研究課題/領域番号 |
26461150
|
研究機関 | 北海道大学 |
研究代表者 |
辻野 一三 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 特任研究教授 (00344507)
|
研究分担者 |
今野 哲 北海道大学, 大学病院, 講師 (20399835)
谷野 美智枝 北海道大学, 医学(系)研究科(研究院), 講師 (90360908)
|
研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
キーワード | 肺高血圧症 / 病理 / 右心 / フォスフォジエステラーゼ5 / エンドセリン / プロスタサイクリン / COPD / 間質性肺炎 |
研究実績の概要 |
本研究は以下の4研究:①呼吸器疾患に伴う肺高血圧症(R-PH)症例の肺血管病変の病理組織学的特性の評価、②血液・気管支肺胞洗浄液を用いたR-PHの発症および肺動脈性肺高血圧症(PAH)治療薬に対する反応に関する検討、③R-PH症例の右心系形態・機能評価、④CT指標(肺動脈/大動脈(PA/Ao)径比など)の予後予測因子としての意義の検証、により構成される。 平成27年度の実績 研究①:病理学的検索が可能な14例のPH剖検症例と比較のための肺疾患のない剖検例3例、肺高血圧症のない呼吸器疾患剖検例4例を選出した。それぞれの肺病理組織からプレパラートを作成し、HE・弾性繊維染色、免疫染色(PDE5、エンドセリン受容体、PGI2受容体、可溶性グアニレートサイクレース)を進めた。 研究②:PH症例の血液検体中のapoptosis inhibitor of macrophage (AIM)の計測を行ったが、健常者との有意差はなかった。一方で、自主臨床試験「肺高血圧症とインスリン抵抗性の関連に関する研究」が北海道大学の倫理委員会にて承認され、平成27年4月から血液検体の採取・保存とインスリン抵抗性、アディポカインなどの計測を開始した。 研究③:心エコー、MRIによるR-PH症例の右心形態・機能評価系の構築を引き続き行い、右室拡張能評価に関しては2015年ヨーロッパ呼吸器学会(於アムステルダム)にて発表した。また血管拡張薬を用いた治療による3群PH症例の右心系指標の変化を観察し、英文論文として海外雑誌に投稿した。 究④:呼吸器疾患を含むPH症例、健常者の胸部CT画像を用いて、PA/Ao径比および他の肺血管関連指標(末梢肺血管総断面積(CSA))のPH症例と健常者間の比較、および肺循環諸量との関連を解析した。PA/Ao比とCSAはいずれも右心カテーテル指標と有意な関連を示し、主な結果は2016年呼吸機能イメージング研究会にて発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究①:解析対象症例の病理検体の選定、検体の準備、染色作業はほぼ順調に進んでいる。中でも肺疾患合併肺高血圧症症例は比較のための他の原因による肺高血圧症症例と併せ14例選定し、標的臓器の切り出し、免疫染色の条件設定、評価方法がほぼ確立した。平成28年度内の実際の観察、(半)定量評価が可能な状態となっている。 研究②:血液検体は約40名から得て、血清・血漿を保存している。今後さらに症例数は増加する見込みである。またPreliminaryな試みとして行ったPH症例と健常者との血清AIM濃度の比較では有意な差がなかったが、これについてはAIMと血中IgMとの結合の影響を考慮する必要があると考えている。今後IgMと結合していない遊離AIM濃度の測定・比較を予定している。血清・血漿の採取と臨床データの記録は順調に進んでおり、最終的には50例以上の症例での解析を予定している。 研究③:CT指標のうちPA/Ao比については計測が単純であり問題なく施行可能だった。一方、CSAの計測には特別なソフトや作業上の準備・方法の確立が必要であったが、これについてはほぼ解決し、今後すでに得られているCT画像でより多い症例での計測が可能な状態となっている。 研究④:右心系のMRI画像解析には撮像の枠の確保や専用のソフト・解析作業が必要であるが、これについては順調であり、初年度に続き平成27年度にも症例数を増やすことが可能だった。実際の解析では特別な数学的計算作業が必要であったが(例:右心室stiffness coefficient(β値))、これも専門知識を有する学内の担当者により自分達で計測できることが可能となり、進捗であった。
|
今後の研究の推進方策 |
研究①:血管を動脈、小血管、静脈に分け、それぞれの変化を評価する。血管病変は背景肺病変別に評価、比較し、さらに得られた結果はR-PH群と非R-PH群(肺動脈性肺高血圧症、健常肺)とで比較する。また上記抗体を用いた免疫染色による解析を進める。染色の有無・程度を病態や臨床データ(特に治療薬に対する反応性)と比較し、病態の理解や対応する治療薬の効果・安全性の予測に繋げるべく検討する。これらの知見を英文誌に投稿する。 研究②:PH症例と対象者で血清AIM濃度に差がなかった点については、遊離AIM濃度の測定を予定している。また、免疫組織学的検討結果との関連、R-PH症例と非呼吸器疾患合併PH症例との比較を行う。また新しいバイオマーカーの探索としてアディポネクチン、脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor(BDNF))、HOMA-IR、HOMA-βなどの計測・解析も進める。BDNFについてはマイオカインの側面も有するため、対象症例との比較に加え、右室心筋での染色や運動負荷試験結果との関連も解析を予定している。 研究③:蓄積したCT画像データの解析を進め、英文雑誌への投稿を目指す。 研究④:14例のR-PH症例の右心形態・機能評価結果に関する論文を英文誌に発表する。PA/Ao比、CSAに関する臨床知見も英文として投稿・受理を目指す。そのほか、右室拡張能指標としてのstiffness coefficientおよびdp/dtを算出する体制を確立し、右室形態や収縮能を含めた包括的評価系を確立する。これらの予後指標としての意義や治療面での有用性をさらに検証する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
本研究では当該年度の実支出の中で、物品費に819816円を要した。物品費は主に研究①の病理学的検討に係る物品購入にあてたが、当該年度に要した額が想定した額よりも小さく、129,815円の次年度使用額が生じた。
|
次年度使用額の使用計画 |
研究①の病理学的検討に係るプレパラート作成、染色、抗体の購入などに対して使用予定である。
|