研究課題
我々のこれまでの知見で、免疫細胞の遊走における重要な役割を演じていると考えられるChemokine (C-C motif) ligand の一つであるCCL1の遺伝子多型 (NCBI: rs2282691)が気道感染性を支配する重要な因子であることを示した。本遺伝子多型によりCCL1の発現量が減弱しているものと推定された。本研究では肺特異的にCCL1を過剰発現するCCL1 transgenic マウス(SPC-CCL1 Tgマウス)を作製し、Bacille de Calmette et Guérin(BCG)気管内投与を行い感染モデルを作製し、肺における病態を評価した。また、DNA microarray解析を用いてこれらのマウスの肺における遺伝子発現を検討した。顕微鏡的観察では、SPC-CCL1 Tg マウスで有意に肉芽腫の増加を認めた。また肺間質における炎症は抑制されていた。DNA microarray解析およびクラスター解析の結果、SPC-CCL1 Tgマウスは野生型に比べ、“生物的ストレスに対する応答”に関連するタグをもつ47の遺伝子で顕著な発現増加を認め、小胞体ストレスと肉芽腫形成に重要な役割を果たしているErn1が野生型に比べSPC-CCL1 Tgマウスで発現が亢進していた。また免疫グロブリン関連遺伝子であるIghg、IGHV、Igk-V5遺伝子の発現が亢進していることが示された。Ern1がコードしている小胞体膜貫通型キナーゼであるIre1の自己リン酸化体であるPhospho-Ire1を免疫染色で評価したところ、SPC-CCL1 Tgマウスで発現の亢進を認めた。Ern1および活性化したIre1により誘導される転写因子であるXbp1(X-box binding protein 1)をreal time PCRで定量評価したが、両群で有意な差異を認めなかった。
2: おおむね順調に進展している
遺伝子改変マウスを用いて肺内に炎症を惹起し、野生型マウスとの炎症の病態形成に差があるかを組織学的および遺伝子レベルでの解析を行ってきた。DNA microarray解析により生物学的ストレスに対する応答に関連する遺伝子や免疫グロブリン関連遺伝子の発現に差を認めたことから、CCL1の遺伝子発現が炎症性肺疾患の病態形成に何らかの関与をしていることが明らかになった。現在までにそれらの遺伝子から誘導される因子につき検討を行ってきたが、マイクロアレイおよび免疫染色では差異を認めたものの、RNAの発現レベルでは有意な差を認めなかった。これまでの実験系ではBCG投与による炎症惹起モデルであり、今後他の炎症疾患モデル、特に間質性肺炎をより誘導しうるモデルを作成することにより、CCL1が肺組織の炎症疾患の病態にどのような関与をしているかが明らかになることが期待される。
<CCL1過剰発現が実験間質性肺炎モデルに及ぼす影響の検討> 肺特異的CCL1発現マウスおよびコントロールマウスに対し、代表的な間質性肺炎のモデルとして知られるブレオマイシン誘導間質性肺炎モデルを作成する。A; マウスに対しOsmotic pumpを用いて経皮的にブレオマイシンを連続投与し、ブレオマイシン誘導間質性肺炎モデルを作成する。B;組織学的検討を行い、肺組織障害の有無を検討し、定量評価を行う。またエラスチカマッソン染色や免疫染色を用いて細胞外マトリックス成分の量や分布の変化を評価する。C;肺組織からRNAを抽出し、DNA microarray解析による網羅的な遺伝子発現変化の解析を行う。D;呼吸機能検査:ブレオマイシン投与後にマウス呼吸機能に変化を生じているかどうかを、呼吸機能測定システム(Buxco Research Systems)にて評価する。肺活量、0.1秒量、静肺コンプライアンスを評価指標とする。<DNA microarray解析から得られた網羅的遺伝子発現データの検証>A.microarray解析によって発現の差が認められた遺伝子(候補遺伝子)について、肺組織から得られたmRNAを用いてRT-PCRを行い、遺伝子発現の定量化を行う。B.肺組織中から採取されている蛋白を用いて、microarray解析で差が認められた因子につきWestern blottingを用いて蛋白発現の差を検討する。C.培養細胞を用いた検討:候補遺伝子が主に発現している細胞を、文献的にかつ免疫組織染色所見を基に判定する。その細胞に相当する培養細胞を用いて候補遺伝子の機能を解析する。
予定されていた予算はほぼ使用したが、1,998円とわずかに残金が生じた。
来年度に消耗品購入に使用する予定である。
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Respir Investig
巻: 53 ページ: 111-116
10.1016/j.resinv.2015.01.002