研究実績の概要 |
本研究では、肺癌などの呼吸器悪性腫瘍の成因上、ウイルスや細菌といった微生物の持続感染が直接あるいは間接的に関与している事実を探求する。 本年度も新規癌ウイルスであるメルケル細胞ポリオーマウイルスの、非小細胞肺癌における関与の検討を継続した。 これまでに我々は、一部の非小細胞肺癌においてメルケル細胞ポリオーマウイルスのゲノムや蛋白を検出し、その感染が腫瘍特異的感染形態を取ることを確認した。その上で、メルケル細胞ポリオーマウイルスが非小細胞肺癌細胞株H1299において、ウエスタンブロット法により、Large T antigen(LT)とviral protein 1(VP1)の発現が起こることを確認した。さらに、感染実験で用いたウイルスをアジア型と欧米型の2種類で比較し、H1299ではアジア型・欧米型ともにRT-PCRにおいて感染が確認できたが、非小細胞肺癌細胞株A549、神経原性腫瘍由来細胞株PFSK-1では欧米型のみ感染が確認できた。さらに、H1299への感染実験で得られたRNAのプロファイリングをcDNA subtractionにより解析することで、欧米型ではMALAT1というnon-coding RNAの発現が多いことが判明したものの、文献的には肺癌の発症とは大きな関連性はないとの報告が多く、発癌との関与は低いものと考えた。 本年度は最終年度であるため、メルケル細胞ポリオーマウイルス以外のウイルスに関しても、非小細胞肺癌での感染の有無を検出することを試みた。Human papillomavirus (HPV) type16, type18についてDIPS-PCR法を用いintegrationを確認したが、有意な結果は認められなかった。今後の研究につながる成果と考え、研究が計画通りに進展していると判断した。
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