研究課題
肺胞上皮細胞由来の肺サーファクタントは、肺胞虚脱防止作用に加え、多様な病原体に対する自然免疫調節作用を有することで知られている。さらに最新研究によって、感染症以外の炎症性病態において抗炎症・抗線維化作用を示すことが明らかになってきた。一方、急性肺傷害の重要な病理学的変化であるびまん性肺胞障害(DAD)は致死的転帰を予見させ、肺胞上皮細胞障害がその病態の根底にある。また、種々の呼吸器疾患において、肺線維化も疾病進行の重要な病態である。本研究では、肺サーファクタント蛋白質(Sf)の新作用である「抗炎症・抗線維化作用」に着目し、Sfが急性肺傷害、肺線維化に対する保護的作用を示すことを明らかにし、最終的にはSfリコンビナント製剤を治療薬として臨床応用するための橋渡し研究を行う。初年度にSP-A(-/-)、hSP-A1 or hSP-A2発現マウスを用いた肺傷害/肺線維化を作成した。週齢8週のSP-A(-/-)マウス、及び野生型C57BL/6マウスに経気道的にLPS、ブレオマイシンを投与し肺傷害モデルおよび肺線維化モデルを作成した。ブレオマイシンを経気道投与したところ、薬剤投与7日目に気管支肺胞洗浄液中の好中球数、TNF-αの増加を認め、SP-A(-/-)マウスでは有意に増強していた。ホルマリン固定肺組織の病理組織学的評価では薬剤投与21日目に肺組織の線維化を認め、SP-A(-/-)マウスでは病変の増悪がみられた。Native SP-A、はシリカ投与で刺激したラットの気管支肺胞洗浄液より分離精製し、recombinant SP-AはCHO細胞を用い作成した。SP-A(-/-)マウス、及び野生型C57BL/6マウスの肺傷害モデルおよび肺線維化モデルに肺コレクチン(SP-A)を投与したところ、気管支肺胞洗浄液中の好中球数減少、TNF-αの低下を認め、炎症が制御されていた。
2: おおむね順調に進展している
SP-A(-/-)、hSP-A1 or hSP-A2発現マウスを用いた肺傷害/肺線維化を作成し、その評価を行うことができた。さらに、肺コレクチン(SP-A)を投与し、炎症制御効果があることを明らかにした。
次年度は最終年度となるが、TLRsと肺コレクチンの結合性について検討を進める。さらに、TLR2やTLR4のリガンドであるpeptidoglycanやlipopolysaccharideを用いてTLRsを介するTNF-αなどの炎症性サイトカイン産生に対する肺コレクチンの効果を検討する。
当初予定ではrecombinant SP-A,SP-Dを多く使用し、合成蛋白の精製を多量に行う予定であったが、シリカ投与ラットから精製したSP-A,SP-Dも使用可能であったため、試薬購入費が少なくなった。
最終年度に合成蛋白の精製をさらに追加で行う予定であり、TLR蛋白の合成を行うため、試薬購入費が増える見込みである。
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Oncogene
巻: 34 ページ: 838-845