研究課題
本研究は、気管支肺胞洗浄液中の16S ribosomal RNA遺伝子の解析を行うことにより、呼吸器感染症の原因菌を明らかにすることに加えて、これまでの細菌培養法を中心とした原因菌の検討では評価が困難であった口腔内常在菌や嫌気性菌の原因菌としての意義を含め、今後高齢化に伴い増加することが予測される誤嚥性肺炎における新たなエビデンスを構築することを目的としている。われわれはこれまでに市中肺炎64例、医療介護関連肺炎82例に対して網羅的細菌叢解析法を用いた原因菌の検討を行い、特に高齢者において、口腔内常在菌である連鎖球菌が肺炎の原因菌として重要であることを示した。連鎖球菌が高齢者の肺炎患者で多く検出されたことに着目し、気管支洗浄液の細菌叢解析の結果を誤嚥のリスク因子の有無によって分類して解析した。対象患者177名(上記146名を含む)のうち、誤嚥のリスク因子を有する患者は83名であった。誤嚥のリスクの有/無での年齢は、それぞれ、76.6/64.5歳であり、リスク有の群で有意に高齢であった。また、誤嚥のリスク有/無での口腔内連鎖球菌の割合はそれぞれ31.0/14.7%であり、誤嚥のリスクを有する群で有意に多くみられた(p=0.009)。また、多変量解析の結果では、口腔内連鎖球菌は、全身状態不良な患者(ECOG performance status 3以上)、一年以内の入院歴が多い患者ほど多く検出される傾向があった。これらのことから、これまで口腔内常在菌として過小評価されていた連鎖球菌が、誤嚥性肺炎においてより重要であることを明らかにした。上記の結果から、次の段階として、口腔内の衛生状態や細菌叢と誤嚥性肺炎との関わりについて検討を行う予定である。現在、歯科口腔外科の協力のもと、プラークを含めた口腔内検体の細菌叢の評価や口腔衛生状態と気管支肺胞洗浄液の細菌叢との比較を行っている。
2: おおむね順調に進展している
上述したように、細菌叢解析によって得られた結果を用いて、誤嚥性肺炎における口腔内連鎖球菌の臨床的意義については解析を終了した。現在、論文投稿中である。また、解析症例数が最終的に177例に達し、100例を超える解析ができたことを考慮し、この一年における当初の目的を達成することができたものと考える。一方で、今回得られた結果をもとにした我々の最終的な目的は、口腔内(上気道)の細菌叢の状態と肺炎(下気道)との因果関係について検討を行うことであり、次の段階として、上述した下気道の細菌叢の結果がいかに口腔内の細菌叢や衛生状態と関与しているかということを解明する必要がある。口腔内の細菌叢を評価するため、歯科口腔外科の協力のもと、口腔内プラークを含めた口腔内の検体や口腔衛生状態の評価を同時に行う患者のさらなる症例追加が必要となる。また、並行して、現在、口腔内検体の細菌叢解析を開始したところであり、次の一年でさらなるデータの集積と解析を行う予定である。
上述したように、誤嚥性肺炎と口腔内連鎖球菌との関係については解析が終了し、現在投稿中である。しかし、われわれが現在取り組んでいる細菌叢解析法に関しては、本学微生物学教室と呼吸器内科学教室における独自の解析法であり、どの施設でも行うことができるわけではない。そのため、われわれが得た解析結果をもとに、抗菌薬のより適切な使用など、いかに実臨床に応用・還元していくかが今後の重要な課題であると考える。また、今回われわれが注目している誤嚥性肺炎に関して、誤嚥性肺炎の発症を考慮するリスク因子についてはガイドライン等に記載されているが、誤嚥性肺炎を明確にする定義というものはなく、診断・治療においては、その場の主治医の判断に左右することが多い。そのため、本研究を推進することによって、各症例の臨床背景や経過、抗菌薬などの治療内容や予後に影響を与える因子と、われわれが得た細菌叢解析の結果の関係について検討し、最終的には誤嚥性肺炎の実臨床において推奨される診断および治療を確立するための新たなエビデンスを構築することが目標であると考える。
本研究における使用額の使用用途の多くが細菌叢解析解析に用いる試薬などである。そのため、収支状況に関しては、われわれが得る検体量と細菌叢解析を行うスピードに応じて、必要な試薬量などが左右される。本一年に関しては、前述したように実験計画としてはおおむね順調に経過し、一定の成果を得ることが可能であった。しかし、その一方で、本研究に使用している解析機器の故障により一時本研究が停止した時期があり、その間の試薬等の使用量が減少したため試薬の購入額が予定よりも少なく、予定よりも使用金額が少なくなったため、次年度の使用額が生じた。
現在われわれが取り組んでいる口腔内の細菌叢と肺炎の原因菌との比較検討においては、これまで以上に多くの検体数の解析を必要とする。このため、昨年度の一時的な機器の故障により解析が遅れた検体を速やかに解析する予定としている。また、本一年で収集可能である検体に関しても滞りなく円滑に解析を行うことで、残額を含め、円滑な運用を予定している。
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Respirology
巻: 印刷中 ページ: 印刷中
10.1111/resp12536
PLOS ONE
10.1371/journal.pone.0124697
PLOS ONE
巻: 31 ページ: e103646
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