研究課題
インターフェロンγ遊離試験(IGRA)は活動性結核の補助診断にも用いられ、その結果が陰性であると結核症の可能性が低いと判断される。しかし、高齢者などでは免疫力の低下に伴ってIGRA偽陰性が生じやすいことが知られている。偽陰性の病態を明らかにするために、平成26年度は、ベトナムとの国際共同研究により、新規喀痰塗抹培養陽性結核患者より提供いただいた保存血漿を用いてIGRAの陽性、陰性に関わる要因の検討を進めた。QuantiFERON-TB in tube (QFT-IT)法で、治療開始前(0か月)、治療中(2か月)、治療終了時(7か月)の3回の検査結果が得られた375名の患者の中で、治療開始前の検査で陰性を示した19名の臨床症状、検査経過を検討した。また、結核菌特異抗原刺激による各種ケモカイン、サイトカインの産生量についてはLuminex系を用いて定量した。その結果、IGRA偽陰性の活動性結核では、治療が奏効しても、結核菌特異抗原により誘導されるインターフェロンγ誘導性のケモカイン、インターロイキン2など複数の免疫関連分子が低値を示し続ける傾向が認められた。したがって、活動性結核におけるIGRA偽陰性は、慢性感染症に伴う一時的な免疫力低下より、むしろ年齢、低体重、遺伝素因など、発病時の宿主側固有の要因が深く関与しているものと推測された。さらに、わが国の症例についても検討を始めており、結核菌抗原特異的エフェクターメモリー細胞の比率を検討するため、エリスポット法を応用したフルオロスポット法によるインターロイキン2とインターフェロンγの同時検出系を試みたので、この系を次年度以降の検討に用いる予定である。
2: おおむね順調に進展している
平成26年度は、ベトナムの新規喀痰塗抹培養陽性結核患者より提供いただいた保存血漿を用いてIGRAの陽性、陰性に関わる要因の検討を予定通り実施することができた。QuantiFERON-TB in tube (QFT-IT)法で、治療開始前、治療中、治療終了時(7の3回の検査結果が得られた中で、治療開始前の検査で陰性を示した19名の臨床症状、検査経過を検討することができた。また、結核菌特異抗原刺激による各種ケモカイン、サイトカインの産生量についてはLuminex系を用いて定量して、治療開始前に偽陰性を生じる群についての特徴を解析して、有意な結果を得ることができた。これらの知見は、現在国際誌に投稿中である。免疫関連分子のmRNA及びこれらを制御するmiRNAなどの解析系については、改良を重ねて、現在、精度の高い測定が可能である。日本の活動性結核症患者血液サンプルによる検討については、併設されている結核予防会複十字病院の活動性結核患者より、血液試料の提供を受けて、保存した既提供試料の本研究における利用について倫理委員会にて承認を得た。したがって、新規に臨床研究を立ち上げて、研究参加者を募り、検体を収集することなく、本研究の目的に沿った検討を行うことが可能になった。これらの検体を用いることで、次年度以降、研究の効率化を図ることができる。結核菌抗原特異的エフェクターメモリー細胞の比率を検討するため、エリスポット法を応用した蛍光スポット法によるインターロイキン2とインターフェロンγの同時検出系について予備的検討を行った。
併設されている結核予防会複十字病院の活動性結核患者より、血液試料の提供を受けて、保存した既提供試料の本研究における利用について倫理委員会にて承認を得たため、これらの検体を用いて検討を進める。活動性結核におけるIGRA陽性群と偽陰性群について、T細胞アナジーに関わるmTOR経路の分子、FoxP3など制御性T細胞関連分子、T細胞の活性化消退期に生じるPD1制御分子など、免疫関連遺伝子およびそれらの制御因子に関する発現を解析する。その際に年齢がどのように影響を与えているか、また免疫制御因子を抑制することで、偽陰性例の反応が回復するかなどの検討を行う。また、結核抗原特異的CD4陽性ヘルパーT細胞は、活動性結核の有効な治療に伴い、結核特異抗原に対するインターフェロンγ単独産生細胞が優位な状態から、インターフェロンγ/インターロイキン2同時産生細胞が優位な状態へと変化することが複数の施設から報告されている。このため、初年度検討した蛍光スポット法を利用して、活動性結核におけるIGRA陽性群と偽陰性群の末梢血リンパ球のサイトカイン産生特性について検討し、年齢の影響も考慮しつつ、IGRA陽性群、陰性群の2群間で有意差が得られるか否かを指標に、偽陰性に特徴的なマーカーを明らかにする。これらの知見は、高齢者の発病メカニズム解明の一助となるとともに、偽陰性に惑わされることのない活動性結核の早期発見など結核対策自体にも貢献する。
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