研究実績の概要 |
本研究では、難治性肺癌の新たな治療戦略として、非小細胞肺癌(NSCLC)細胞における癌幹細胞表面抗原の阻害と、癌幹細胞の可塑性に関わるヒストン修飾酵素阻害との併用療法の開発を目標とし、その基盤となる研究を行った。 EGFR遺伝子変異陽性細胞株(PC-3, PC-9, HCC827, H1975)および陰性細胞株(H1299, A549, H460)を用いて、白血病幹細胞の表面抗原であるTIM-3の発現陽性細胞をフローサイトメトリーによって検討したが、有意な陽性細胞の分画が得られなかった。このため、代表的な幹細胞分画として知られるside population(SP細胞)についてH1975を用いて検討し、1-2%のSP細胞を同定した。SP細胞はnon-SP細胞と比べ、ソフトアガロース法でのコロニー形成能とSCIDマウスでの造腫瘍能の増強を認め、Sox2, Oct4, Nanog, Notch1の幹細胞マーカーの上昇を認めた他、ヒストンH3K27トリメチル化酵素EZH2の発現も亢進していることを明らかにした。 すでに私達はEZH2阻害薬のDZNepが種々の肺癌細胞の増殖を抑制することを示していたが、本研究ではEZH2による転写抑制に必要と報告されたヒストン脱アセチル化酵素HDAC阻害薬のSAHAを併用することで、in vitroおよびin vivoで相加・相乗的に抗腫瘍効果が増強することを示した。特にEGFR変異を有するPC-3とH1975で効果が高く、正常型だけでなく、変異型EGFRの発現とリン酸化も抑制した。さらにヒストン修飾分子であるBETファミリー阻害薬の抗腫瘍効果や、DZNepとの相乗的な併用効果を見出した。 以上より、癌幹細胞に関わる複数のヒストン修飾分子の阻害が肺癌の新たな治療戦略となる可能性が示唆された。
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