研究課題
本研究の目的は生体内における鉄の濃度の変化が、喫煙暴露時の肺気腫形成にどのような影響を与えるかを検討することである。4~5週齡雄のC57BL/6Jマウスを2群に分け、鉄を除いた鉄欠乏食と通常量の鉄を含んだコントロール食を与えた。鉄欠乏食投与群ではコントロール群と比べ、有意に血清鉄が低下しており、鉄欠乏状態が誘導されていた。臓器から鉄を抽出し、単位重量あたりの鉄を比較したところ、鉄欠乏食投与群では肝臓や脾臓、肺の鉄濃度の有意な低下が認められた。肺および肝臓からRNAを抽出し、逆転写にてcDNAを作成してPCRにて鉄関連因子を比較した。肝臓では、鉄欠乏食投与群でTransferrin receptor 1の上昇を認めたが、肺では鉄欠乏食投与群とコントロール群とで有意な変化は認められなかった。また鉄欠乏状態ではHepcidinの発現が低下することが知られており、今回の研究でも鉄欠乏食投与群の肝臓のHepcidinの低下を認めたが、肺のHepcidinは鉄欠乏状態にも関わらず発現していた。以上から肺の鉄代謝は肝臓を中心とする鉄代謝とは異なると考えられた。続いて鉄欠乏状態下での喫煙暴露の影響について検討した。鉄欠乏食およびコントロール食を3週間投与した後、タバコ10本/日、10日間(週5日)で喫煙暴露を行った。最終暴露から24時間後に気管支肺胞洗浄を行ったところ、鉄欠乏食投与群でのみ喫煙暴露後で有意な細胞増加が認められた。このことから鉄欠乏状況下では喫煙暴露の炎症が増強される可能性が示唆された。またコントロール食群投与群では喫煙暴露によって赤血球増多の傾向と血清鉄の有意な低下がみられたのに対し、鉄欠乏食投与群ではそのような変化がみられなかった。
2: おおむね順調に進展している
鉄欠乏状態での肺における鉄代謝の変化が、肝臓などの他臓器と大きく異なっていることが理解できた。さらに細胞実験で鉄を欠乏させることによって、刺激時に過剰な炎症反応が惹起される現象が観察された。マウスを用いた検討においては、鉄欠乏状態にすることで、喫煙曝露という刺激によって、炎症が増強することが確認された。以上、細胞と動物を用いた両方の研究にて、生体に刺激が加えられた際に、鉄欠乏状態が過剰な炎症反応を惹起する可能性を示したものと考えられる。すなわち、これらの結果は、我々の仮説を裏付けているものと考えられ、今後の成果につながることが期待される。
本研究の目的である血清鉄濃度の変化が、肺気腫形成にどのような影響をあたえるのか、さらに検討を進める。I. 短期喫煙曝露実験①鉄欠乏マウスとコントロールマウスに対して1か月間喫煙曝露を施し、以下について比較検討する。1)肺における炎症細胞の浸潤程度を病理学的に定量評価する。2)肺組織からRNAと蛋白を抽出し、炎症性サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、鉄代謝因子、ストレス関連因子の発現について評価する。②鉄過剰投与マウスとコントロールマウスに対して1か月間喫煙曝露を施し、以下について比較検討する。1)肺における炎症細胞の浸潤程度を病理学的に定量評価する。2)肺組織からRNAと蛋白を抽出し、炎症性サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、鉄代謝因子、ストレス関連因子の発現について評価する。II. 長期喫煙曝露実験①鉄欠乏マウスとコントロールマウスに対して6か月間喫煙曝露を施し、以下について比較検討する。1)肺におけるマクロファージをはじめとした炎症細胞浸潤の程度並びに気腫化の程度を病理学的に定量評価する。2)呼吸機能の評価を行う。3)肺組織からRNAと蛋白を抽出し、炎症性サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、鉄代謝因子、ストレス関連因子の発現について評価する。②鉄過剰投与マウスとコントロールマウスに対して6か月間喫煙曝露を施し、以下について比較検討する。1)肺におけるマクロファージをはじめとした炎症細胞浸潤の程度並びに気腫化の程度を病理学的に定量評価する。2)呼吸機能の評価を行う3)肺組織からRNAと蛋白を抽出し、炎症性サイトカイン、マトリックスメタロプロテアーゼ、鉄代謝因子、ストレス関連因子の発現について評価する。
予定されていた予算はほぼ使用したが、1,115円とわずかに残金が生じた。
来年度に消耗品購入に使用する予定である。
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Clin Exp Nephrol.
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