研究課題/領域番号 |
26461179
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研究機関 | 群馬大学 |
研究代表者 |
横山 知行 群馬大学, 保健学研究科, 教授 (70312890)
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研究分担者 |
松井 弘樹 群馬大学, 保健学研究科, 助教 (20431710)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | Elovl6 / 肺気腫 / 飽和脂肪酸 / 不飽和脂肪酸 |
研究実績の概要 |
II型肺胞上皮より産生される肺サーファクタントは約9割が脂質で構成され、肺胞の虚脱を防ぐとともに、外敵からの生体防御に重要な役割を果たしているが、肺胞上皮の脂質代謝と呼吸器疾患の関係は明らかになっていない。そこで、肺胞上皮での飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸のバランスに着目し、肺胞上皮細胞の脂肪酸組成を制御するStearoyl-CoA desaturase-1(SCD1)とElongation of long chain fatty acid member 6 (Elovl6)の発現と呼吸器疾患進展との関係をSCD1、Elovl6遺伝子欠損マウスを用いて明らかにすることを目的に研究を開始した。申請者らはElovl6欠損マウスにブレオマイシン気管支投与を行い肺線維症モデルを作成したところ、野生型マウスと比較して著明な肺線維症の増悪を認めた。さらに、マウスの肺から脂質を抽出し、脂肪酸分画を測定したところ、飽和脂肪酸であるパルミチン酸の増加、不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認め、増加したパルミチン酸がⅡ型肺胞上皮細胞における酸化ストレスの亢進や、線維化の重要な因子であるTGF-β1の発現やアポトーシスを誘導することも明らかにした。さらに、大変興味深いことに、Elovl6欠損マウスでは間質の線維化だけでなく、肺胞の破壊による気腫性変化も伴っていた。特に体重の少ないマウスで肺気腫病変の進行が著しかった。また、弾性線維の断裂を認めたが、膠原線維には変化は認めなかった。一方、Elovl6欠損マウスの肺ではアポトーシスが認められ、アポトーシスに関連してBaxおよびBcl-2遺伝子発遍の上昇も認められた。さらに、この肺から脂質を抽出し、脂肪酸分画を測定したところ、飽和脂肪酸であるパルミチン酸の増加、不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認めた。現在、野生型マウスとSCD1欠損マウスおよびElovl6欠損マウスに6ヶ月の長期喫煙曝露を負荷して肺気腫モデルを作製中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
群馬大学では平成26年に動物実験施設の大幅な改修工事が行われたため、半年以上に渡って、動物実験、特に遺伝子改変動物による動物実験が困難な状況にあった。平成27年より生物資源センターとして動物実験が可能となるも、遺伝子改変動物の飼育再開にあたっては動物のクリーニングが必要であり、現在、Elovl6欠損マウス、SCD1欠損マウスのクリーニングを行っているところである。従って、本研究の主要課題である遺伝子改変動物による実験が当初の計画より遅延している。 (1)SCD1、Elovl6欠損マウスを用いて、肺気腫の病態モデル動物を作製し、肺でのSCD1、Elovl6活性および脂肪酸組成の変化と病態との関係を比較検討する。 Elovl6欠損マウスより肺を採取し、組織から薄切標本を作成して病理変化を調べると、局所的に肺胞の破壊による気腫性変化が認められた。特に体重の少ないマウスで肺気腫病変の進行が著しかった。また、弾性線維の断裂を認めたが、膠原線維には変化は認めなかった。一方、Elovl6欠損マウスの肺ではアポトーシスが認められ、アポトーシスに関連してBaxおよびBcl-2遺伝子発遍の上昇も認められた。さらに、この肺から脂質を抽出し、脂肪酸分画を測定したところ、飽和脂肪酸であるパルミチン酸の増加、不飽和脂肪酸であるオレイン酸の減少を認めた。現在、野生型マウスとSCD1欠損マウスおよびElovl6欠損マウスに6ヶ月の長期喫煙曝露を負荷して肺気腫モデルを作製中である。 (2)II型肺胞上皮特異的にSCD1発現あるいはElovl6発現を欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作成して、II型肺胞上皮の脂肪酸組成バランスと病態との関係を検討する。 Elovl6の発現をII型肺胞上皮特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作製するため、Elovl6をloxP遺伝子で挟んだElovl6 floxマウスを作製中である。
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今後の研究の推進方策 |
(1)SCD1、Elovl6欠損マウスを用いて、肺気腫の病態モデル動物を作製し、肺でのSCD1、Elovl6活性および脂肪酸組成の変化と病態との関係を比較検討する。 野生型マウスとSCD1欠損マウスおよびElovl6欠損マウスに6ヶ月の長期喫煙曝露を負荷して肺気腫モデルを作製し、病態モデルおよびコントロール動物から経気管支的にBALを採取する。BALより脂質を抽出し、遊離脂肪酸分画を測定してSCD1およびElovl6活性を測定する。また肺胞サーファクタントの定量と分画の同定も行う。また、肺組織からmRNAおよびタンパクを抽出し、SCD1、Elovl6およびSP-Cの発現と、肺気腫や肺線維症のマーカーとなる遺伝子群(MMP-2, 9、TGF-β、IL-6など)を定量的PCR法やELISA法およびウェスタンブロッティング法にて比較検討する。 (2)II型肺胞上皮特異的にSCD1発現あるいはElovl6発現を欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作成して、II型肺胞上皮の脂肪酸組成バランスと病態との関係を検討する。 SCD1およびElovl6の発現をII型肺胞上皮特異的に欠損したコンディショナルノックアウトマウスを作製する。方法としては、SCD1あるいはElovl6をloxP遺伝子で挟んだSCD-1 およびElovl6 floxマウスを作製し、これとII型肺胞上皮特異的遺伝子であるSP-CプロモーターをCre遺伝子につないだSPC-Cre-ERT2トランスジェニックマウスとを掛け合わせ、II型肺胞上皮特異的SCD-1およびElovl6ノックアウトマウスを作製する。これらのマウスに(1)と同様に肺気腫モデルを作製する。
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次年度使用額が生じた理由 |
群馬大学では平成26年に動物実験施設の大幅な改修工事が行われたため、半年以上に渡って、動物実験、特に遺伝子改変動物による動物実験が困難な状況にあった。平成27年より生物資源センターとして動物実験が可能となるも、遺伝子改変動物の飼育再開にあたっては動物のクリーニングが必要であり、現在、Elovl6欠損マウス、SCD1欠損マウスのクリーニングを行っているところである。従って、本研究の主要課題である遺伝子改変動物による実験が当初の計画より遅延しているため、研究費の使用も平成27年度に繰り越しとなっている。
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次年度使用額の使用計画 |
(1)消耗品: 動物モデルの作製については群馬大学動物実験施設を利用し、長期間飼育を行うため、実験動物代、飼育費および特殊飼料を購入。また、培養細胞を用いた実験のためには細胞培養用の器具と試薬、血清等が必要。さらに、動物や培養細胞からRNAおよび蛋白を抽出して測定を行うためには、PCR用試薬等が欠かせない。特に本研究ではノックアウトマウスの作製が重要であるため、作製のための経費および実験動物代、飼育費やマウス系統の維持に必要な経費として支出予定。 (2)旅費他:本研究の成果を国内学術会議等で発表するための旅費を支出予定。
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