研究課題/領域番号 |
26461183
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
関根 郁夫 筑波大学, 医学医療系, 教授 (10508310)
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研究分担者 |
田川 雅敏 千葉県がんセンター(研究所), がん治療開発グループ, 部長 (20171572)
岩澤 俊一郎 千葉大学, 医学部附属病院, 講師 (00527913)
瀧口 裕一 千葉大学, 大学院医学研究院, 教授 (30272321)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2018-03-31
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キーワード | 悪性中皮腫 / 薬剤耐性 / ペメトレキセド |
研究実績の概要 |
本研究の目的はペメトレキセド耐性機構の一端を解明することである。まずコロニー形成能を指標にヒト悪性中皮腫細胞のペメトレキセド耐性株を樹立し、さらにWST法で耐性株であることを確認した。そこで親株と網羅的に遺伝子発現を比較したところ、6遺伝子が、耐性株で上昇していた。そこで、当該蛋白質が実際に耐性株で増加しているかをウエスタンブロット法で検討したところ、ANKRD1とIGFBP3分子に発現上昇が見られた。 そこで同分子の薬剤耐性における関与についてsiRNAを用いて検討したところ、ANKRD1分子の発現減少によっても、ペメトレキセド耐性は変化しなかった。一方、siRNAよるIGFBP3分子の発現低下は、薬剤耐性細胞におけるペメトレキセド耐性をむしろ増加させたが、親株における同薬剤耐性に影響を与えなかった。この結果は、IGFBP3分子の薬剤耐性における関与を示唆するも、発現上昇が同薬剤耐性に関連していないことを意味している。そこで、培養上清液のIGFBP3分子をエライザ法を用いて検討したところ、薬剤耐性細胞では同分子の分泌が実は低下しており、siRNA処理によって、さらに分泌量は低下した。一方、細胞内部のIGFBP3は親株に比較して増加していた。すなわち、薬剤耐性細胞ではIGFBP3分子の分泌傷害によって細胞外分子の量が低下しており、それを補正するため産生量(細胞内蛋白量)が増加したと想定された。また、IGFBP3分泌の減少は増殖因子であるIGFの当該受容体への結合性を増加させ、薬剤感受性を減少させたと考えられる。さらに親株と耐性株をペメトレキセドで刺激したところ、ANKRD1発現上昇を認めたが、IGFBP3発現はほとんど変化しなかった。したがって、ANKRD1はペメトレキセド耐性のマーカーとなる可能性があり、同分子の発現にp53経路の活性化が関与していた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
薬剤耐性に関与する6候補遺伝子の中で、蛋白レベルで発現上昇を確認出来たのは、ANKRD1とIGFBP3のみであった。そのうち、IGFBP3に対するsiRNA処理は薬剤感受性に影響を与えた。従って、候補分子のスクリーニングは順調に実施しえた。ただし、発現量の増加が薬剤耐性を結びつくと想定していたが、実際は予想に反して、IGFBP3分子の分泌量低下が耐性株で観察され、しかもsiRNA処理によって、一層薬剤耐性が高まっていた。しかも、親株ではなく耐性株においてのみ、この薬剤耐性の増強が観察された。IGFBP3分子の機能は複雑で、IGFの当該受容体への結合を阻害する一面、それを促進することも知られている。現時点においては、IGFBP3はIGF機能を阻害すると考え、IGFBP3の減少は増殖刺激を向上させ、細胞代謝阻害剤の効果を抑制したと考えている。ペメトレキセド刺激によるp53経路の活性化は細胞株によって異なり同薬剤耐性と上記の分子発現、p53活性化との相関性は乏しいと考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
薬剤耐性に関与する遺伝子の同定は為し得たが、その詳細な機序の検討では当初の想定とは異なった結果であった。そのため、臨床検体を用いた研究へ進むのでは無く、薬剤耐性の機序をより深く検討する予定である。最近、ペメトレキセドの薬剤耐性はAMPKの活性化に関与するという論文が公表された。そこで、当該細胞でもこれを検討すると、薬剤耐性細胞でリン酸化AMPK分子の発現が親株に比較して上昇していた。そこで、AMPKからmTOR経路のおける薬剤耐性における関与につても、検討をする予定である。 当初計画した若干の研究費が残ったので、研究費補助期間延長を申請した。ここまでの研究成果の学会発表や論文作成に用いる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
薬剤耐性に関与する遺伝子の同定は為し得たが、その詳細な機序の検討では当初の想定とは異なった結果であった。そのため、臨床検体を用いた研究へ進むのでは無く、薬剤耐性の機序をより深く検討する事となった。そのため、まだ論文作成に至っていない。そのため若干の余剰金額が発生した。
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次年度使用額の使用計画 |
若干の追加実験の費用と研究成果の学会発表や論文作成に用いる予定である。
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