研究実績の概要 |
正常ヒト気管上皮初代培養細胞(Normal human bronchial epithelial cell: NHBE)と正常ヒト気管上皮cell line(HBE1)を用いて、TLRリガンドで刺激した後にmRNAを抽出して,気道炎症促進にかかわる遺伝子群の発現変化を網羅的に解析した。PolyI:C (TLR3リガンド)、LPS(TLR4リガンド)、flagellin(TLR5リガンド)は、気道上皮細胞における種々の炎症性サイトカイン・ケモカイン(IL-8, G-CSF, CXCL-1, IL-1F9)発現を増加させた。 次に、気管支喘息病態形成への関与が報告されているTh2サイトカイン(IL-4, 13)やTh17サイトカイン(IL-17A)の添加が,気道上皮細胞における気道炎症関連遺伝子発現を誘導するか否か検討した。IL-17Aは、気道上皮におけるIL-8, G-CSF, CXCL-1, IL-1F9発現を誘導したが、IL-4, 13 はいずれの発現誘導も来さなかった。 さらに、各種サイトカイン(IL-4, 13, 17A)とTLRリガンドの共添加を行い,気道炎症関連遺伝子群が相乗的に誘導されるか否か,real-time PCR 法を用いて検討した。IL-17AとpolyI:Cの共刺激により、IL-8, G-CSF, CXCL-1, IL-1F9 mRNAの相乗的な発現誘導が認められ、その発現は24時間まで刺激時間依存的に増加した。蛋白レベルにおける発現に関してELISAを用いて検討し、IL-17A/polyI:Cの共添加(24時間)はpolyI:C単独添加と比較して、培養上清におけるIL-8, G-CSF蛋白濃度を相乗的に増加させた。現在、相乗的発現誘導に関わる細胞内メカニズムについて、解析を進めている。
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今後の研究の推進方策 |
前述の如く、今後はIL-17A/polyI:C共刺激による相乗的炎症関連遺伝子発現誘導に関わる細胞内シグナル伝達や転写メカニズムを解析し、その効果的な抑制法を検討する予定である。重症気管支喘息では、気道あるいは血清中におけるIL-17Aの増加が報告されている。よって、上記メカニズムの解析は、気管支喘息におけるウイルス感染時に伴う気道炎症増悪機序を解明するとともにその抑制法の開発に通じることが期待される。 具体的には、細胞内シグナル伝達や転写メカニズムの解析として、IL-17シグナルやTLRシグナルへの関与が報告されている、TLR3/TRIF/NF-κB経路、MAPK経路、IFR経路などに着目して、それらの活性化の程度をwestern blotting法を用いて、単独刺激時(IL-17A or polyI:C)と共刺激時(IL-17A + polyI:C)において比較検討する。また、クロマチン免疫沈降法を用いて、炎症性サイトカイン・ケモカイン(IL-8, G-CSF, CXCL-1など)遺伝子のプロモーター領域における各種転写因子(NF-κB, IRF)の結合について、単独刺激時(IL-17A or polyI:C)と共刺激時(IL-17A + polyI:C)の相違を検討する。 さらに、各種経路に関してsiRNAを用いたノックダウン(TRIF siRNA, p65 siRNA, IRF3 siRNA)や経路特異的阻害剤(U0126 (ERK inhibitor), SB202190 (p38 inhibitor), SP600125 (JNK inhibitor), BAY11(NF-κB inhibitor))などを用いて経路特異的阻害を行い、IL-17A/polyI:C共刺激による炎症関連遺伝子群(IL-8, G-CSF, CXCL-1など)の相乗的発現に対していかなる経路阻害が効率よくそれらを抑制しうるか、real-time PCRを用いて解析する予定である。
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