研究課題
本研究では、ヒト悪性胸膜中皮腫細胞同所移植モデルマウスを用いて、血管新生阻害剤(ベバシズマブ)の耐性メカニズムを解明することを目的としている。初年度(平成26年度)にはベバシズマブ獲得耐性における宿主側の線維芽細胞増殖因子(FGF2)の重要性の検証およびその産生細胞の同定を行った。FGF受容体阻害薬をベバシズマブに併用した治療実験の結果、本モデルにおけるベバシズマブ耐性化に腫瘍内のFGF2産生が寄与していることが明らかとなった。FGF2産生細胞の同定については、マウスから採取したベバシズマブ耐性化腫瘍を用いて、様々なマーカーを用いて免疫染色を行った。FGF2はCXCR4およびタイプIコラーゲン染色と共染色を示し、これらのマーカー発現から、FGF2を発現する主な細胞はfibrocyteであることが明らかとなった。このことから、ベバシズマブ獲得耐性には宿主側FGF2が重要であり、その産生細胞としてfibrocyteが同定された。平成27年度では、まず、マウスモデルにおいて、ベバシズマブ耐性化腫瘍におけるfibrocyteの集積メカニズムの検討を行い、ベバシズマブ投与によって惹起された低酸素環境ががん細胞のCXCL12発現を亢進させ、CXCL12/CXCR4 axisを介してfibrocyteが腫瘍内に遊走することを明らかにした。また、マウスモデルで認められた現象がヒトでも認められるか否かについて、ベバシズマブ投与後に手術に至った症例の手術検体を用いて、ヒト肺癌組織中のfibrocyteの集積について検討した。結果、ベバシズマブ投与後に手術した群では、手術単独群や術前化学療法のみの群に比べ有意に腫瘍組織内のFGF2産生細胞数およびfibrocyte数が増加していた。以上より、fibrocyteが抗VEGF治療耐性化のバイオマーカーとなり得る可能性が示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定では、平成27年度以降は次の3項目について重点的に検討することとしていた。1.マウスモデルにおいて抗VEGFおよび抗FGF2併用療法における耐性メカニズムを明らかにする。2.ヒト肺癌組織内において、宿主側FGF2がどの細胞から産生されているのかを単球、線維芽細胞、好中球等の表面マーカーとFGF2を免疫染色することで検討し、責任細胞を同定する。3.ベバシズマブ耐性における初期耐性の関与について検討する。2.については既に結果が出ており、これまでの結果と併せて誌上発表を行った。1.3.についても既に研究を開始している。よって研究はおおむね順調に進展していると考えている。
これまでの研究で、ベバシズマブにFGF2 (FGFR) 阻害剤を併用することで、ベバシズマブ耐性を一部克服できることを示した。しかし、併用群においてもやはりいずれマウスは腫瘍死することも確認しており、「FGF2の次の耐性関連因子は何か?」を今後明らかにすることは、さらに詳細なベバシズマブ耐性関連バイオマーカーの同定につながる可能性がある。既に複数回の実験において再現性も確認済みであり、腫瘍サンプルも採取している。今後、網羅的にVEGF/FGF2阻害剤耐性関連因子について同定していく予定である。今回我々が明らかにしたベバシズマブ耐性メカニズムは獲得耐性メカニズムであるが、実際には初期耐性も存在すると考えている。複数の細胞株を用いたマウスモデルをベバシズマブで治療しても、その効果には差があることもpreliminary dataとして確認している。ベバシズマブの治療効果の差により、細胞株間の遺伝子発現の有無を網羅的に解析していく予定である。獲得耐性のみならず、初期耐性メカニズムを明らかにし、双方のバイオマーカーを同定することは重要であると考えている。
平成28年3月納品となり、支払いが完了していないため、次年度使用額が生じた。
平成28年4月に支払い完了予定である。
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Nature Communications
巻: 6 ページ: 8792
10.1038/ncomms9792.
http://www.sannai.umin.jp/