研究課題/領域番号 |
26461194
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研究機関 | 岩手医科大学 |
研究代表者 |
山内 広平 岩手医科大学, 医学部, 教授 (20200579)
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研究分担者 |
小笠原 正人 愛媛大学, 医学(系)研究科(研究院), 准教授 (00325367)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | PCMT / 異性体化 / 酸化ストレス / COPD / ミトコンドリア |
研究実績の概要 |
本研究は慢性閉塞性肺疾患(COPD)の発症において、酸化ストレスの障害の1つとして蛋白質中のアスパラギンおよびアスパラギン酸残基の異性体化が蛋白質の構造変化により、蛋白質の障害が起こり、その修復過程がPCMT1酵素に依存しているが異性体の中間体までは非酵素的反応で進むため、不完全な修復となる。異性体化蛋白質の中でミトコンドリア内膜に存在するprohibitin1(PHB1)の異性体化はミトコンドリアの形態、機能の障害に関与することが考えられ、修復酵素PCMT1遺伝子ノックダウン細胞におけるミトコンドリアの形態・機能について検討した。タバコ抽出液が存在しなくてもPCMT1遺伝子ノックダウン細胞ではミトコンドリア形態が障害され、クリステの構造が破壊される。また呼吸鎖蛋白質であるCOX IVが低下し、ATPの産生能も低下する。COPD肺組織標本では有意にPCMT1の発現が低下していた。細胞にタバコ抽出液を負荷するとPCMT1の発現は誘導されるが、ヒト肺組織と細胞での解析では乖離が認められた。赤血球中にも十分量のPCMT1は存在し、長期のタバコなどの酸化ストレスを受けた時の赤血球中のPCMT1蛋白質の活性、酵素自身の異性体化も考えられ、今後の検討課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COPD患者由来肺組織、およびコントロール肺組織のpaenidase I 処理と二次元電気泳動を組み合わせた網羅的解析により4種類の酵素感受性蛋白質を同定した。また研究分担者は既に肺胞上皮由来細胞株A549細胞のPCMT1遺伝子ノックダウン細胞株(PCMT1-KD細胞)を樹立しており、細胞内でのアスパラギン酸残基異性体化による細胞内小器官の障害を検証するモデルシステム構築した。この系を利用し、酸化ストレス誘導物質としてタバコ抽出液の存在下におけるミトコンドリアの機能、形態、オートファジーについて検討した。PCMT1-KD細胞のPCMT1発現はおよそ30%まで低下し、この時のミトコンドリアの形態を電子顕微鏡観察すると、ミトコンドリアのクリステ構造の破壊、空胞化が目立った。PCMT1-cont細胞ではタバコ抽出液を負荷すると酸化ストレスを受けミトコンドリアの形態変化、特に断片化が確認できるが、PCMT1-KD細胞ではタバコ抽出液に関係なくミトコンドリアの形態変化が確認できた。PCMT1は従来、細胞質、核または小胞体に存在すると考えられていたが、ミトコンドリア画分でもPCMT1の存在を確認でき、免疫電顕でもミトコンドリアクリステ内膜に張り付くように存在していることが確認できた。COPD肺ではPCMT1の蛋白レベルでの発現が有意に低下していることを肺組織標本で確認した。COPD発症のプロセスに酸化ストレスだけではなくPCMT1活性の低下によるアスパラギンおよびアスパラギン酸残基の異性体化を介した蛋白質の構造、さらには機能的障害を伴っていることがこれまでの研究で明らかにできた。
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今後の研究の推進方策 |
(1)末梢血赤血球のPCMT1の分析:COPD患者(60名)、肺機能正常の喫煙患者(60名)、および非喫煙健康成人(60名)の末梢血赤血球中のPCMT1活性を測定する。赤血球中のPCMT1の構造の質的変化をpaenidase Iを用いて評価する。 (2)PCMT1変異蛋白質(N⇒DおよびD⇒N)の発現と細胞生物学的解析:脱アミノ反応によるN⇒D置換による酵素活性への影響、および細胞生物学的解析を行う。酵素活性はプロメガ社のISOQUANT Isoaspartate Detection Kitを用いて解析する。 (3)酸化ストレス高感受性のNrf2ノックアウトマウスを用いての肺気腫発症におけるPCMT1の役割の解析:Nrf2ノックアウトマウスはタバコ煙に対して高感受性を示し、短期間で肺気腫を発症する。したがって、このノックアウトマウスにおけるタバコ煙暴露時のPCMT1の発現変動について経時的にmRNAおよび蛋白質レベルで検討する。
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