研究課題/領域番号 |
26461195
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研究機関 | 自治医科大学 |
研究代表者 |
小山 信之 自治医科大学, 医学部, 研究員 (30353460)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | EZH2 / 小細胞肺癌 / EMT / siRNA / マイクロRNA / 網羅解析 / 転移 / 癌性胸膜炎 |
研究実績の概要 |
臨床検体を用いたEZH2研究については、A:腫瘍径3cm以上のEZH2高発現肺癌、B:EZH2非発現原発巣とEZH2発現リンパ節転移巣を有する肺癌に各々該当する検体を探索するためにインフォームドコンセント後、外科切除検体を用いてEZH2発現解析を行った。現在までA、Bに該当する症例が数例あり、現在解析継続中である。 これらとは別に肺癌細胞株を用いたEZH2発現制御実験を進め、特にEZH2が高発現して上皮間葉移行(EMT)に伴う転移、浸潤機能が著しい小細胞肺癌細胞株に対して、EZH2 siRNAによるEZH2発現抑制を行った。EZH2が高発現していたSBC3とSBC5の各小細胞肺癌細胞株に対してEZH2 siRNAを導入し、リアルタイムPCRおよびウエスタンブロットを行いEZH2 mRNA、EZH2蛋白の各発現抑制を確認した。さらにEMTにおける上皮系マーカーであるE-カドヘリンの転写および蛋白発現亢進もみられ、EMTの抑制が確認された。さらにEZH2 cDNAをクローニングしたpcDNA 3.1ベクターをEZH2が低発現だったH1299肺癌(大細胞神経内分泌癌)細胞株へ導入後、EZH2安定過剰発現細胞株を樹立した。ウエスタンロットではこの細胞株におけるEZH2蛋白発現亢進が確認され、あわせてE-カドヘリンの発現低下およびEMTにおける間葉系マーカーであるビメンチン発現の亢進が認められた。 以上からEZH2が小細胞肺癌のEMTに関与していることが示されたため、EZH2発現抑制、E-カドヘリン発現亢進が確認されたEZH2 siRNA導入SBC3、SBC5の各細胞株およびネガティブコントロールとなるsiRNAを導入したSBC3、SBC5からTotal RNAを抽出して、マイクロRNAに対する網羅的解析を行った。現在は複数の候補マイクロRNAを同定して機能解析中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
臨床検体を用いた研究に関しては、該当症例検体の探索を行い、数例を同定したため、現在は解析を継続している。細胞株を用いた研究についてはEZH2 siRNA導入によるEZH2発現抑制およびEZH2発現ベクター導入によるEZH2過剰発現を行い、EZH2発現を変化させる環境を確立した。さらにEZH2 siRNA導入によるEMT抑制、EZH2過剰発現によるEMT促進を上皮系マーカー(E-カドヘリン)、間葉系マーカー(ビメンチン)の転写およびタンパク発現変化から確認しているため、EZH2発現変化EZH2がEMTを促進する機能を有していることを示すことができた。そのため細胞株におけるEZH2発現制御とそれに伴うEMT変化という現象は想定通りの結果となっている。その後に行ったマイクロRNA網羅解析については、EZH2 siRNA導入によるEZH2発現低下とそれに伴うEMTの抑制が示された2種類の小細胞肺癌細胞株(SBC3、SBC5)を対象として開始した。これらの細胞株とは別にSBC3、SBC5の各細胞株にネガティブコントロールとなるsiRNAを導入し、リファレンスとしてマイクロRNA網羅解析を同様に行い、EZH2 siRNA導入細胞株に対する解析とマイクロRNAの発現レベルを比較した。その結果2種類のEZH2 siRNA導入細胞株において共通して有意に発現が亢進または低下したマイクロRNAを複数同定したため、現在は同定したマイクロRNAに対する機能解析を行うための準備を進めている。すなわち発現の低下がみられたマイクロRNAについては発現プラスミドを作製し、発現の亢進がみられたマイクロRNAに対しては発現阻害1本鎖RNAヌクレオチドを作製して細胞へ導入することとしている。
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今後の研究の推進方策 |
同定したマイクロRNAのうちEZH2 siRNAにより発現の亢進がみられたマイクロRNAについては発現プラスミドを無処理のSBC3、SBC5各細胞株に導入して同定したマイクロRNAを過剰発現させ、E-カドヘリン発現の変化からEMTが抑制されていることを確認する。またEZH2 siRNAにより発現の低下がみられたマイクロRNAについては、上記と同じSBC3、SBC5の各細胞株に同定したマイクロRNAに対する発現阻害1本鎖RNAヌクレオチドを細胞導入してE-カドヘリン、ビメンチン発現の変化からEMTが促進されていることを確認する。各マイクロRNAに対する上記の実験が推測通りの結果だった場合、さらに解析を進めて各マイクロRNAが標的とする遺伝子を同定する。標的遺伝子のコードする蛋白がEZH2により制御を受けている分子である可能性が高いため、EZH2 siRNA導入により標的遺伝子のmRNAおよびそのコードする蛋白の発現が推測通りに変化(マイクロRNAと相反した発現)しているかをリアルタイムPCR、ウエスタンブロットにより確認する。さらに当初に予定していた通り、マウス胸腔内へ無処理のSBC3、SBC5各細胞株を注入することによる癌性胸膜炎モデルに対する治療を試みる。EZH2により発現抑制されているマイクロRNAまたはEZH2により発現が亢進しているマイクロRNAに対する発現阻害1本鎖RNAヌクレオチドを胸腔内へ注入し、癌性胸水の変化を解析して癌性胸膜炎に対する効果を確認する。一方、EZH2安定過剰発現細胞株に対するマイクロRNA網羅解析も行い、解析中のマイクロRNAの発現を確認するとともに、EZH2過剰発現において発現が変化するマイクロRNAを検出する。
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