研究課題
常染色体優性遺伝性多発嚢胞腎(Autosomal Dominant Polycystic Kidney Disease:ADPKD)は遺伝性腎疾患の中で最も頻度が多く、加齢とともに嚢胞が両腎に増加し、進行性に腎機能が障害され,70才までに約半数が腎不全に陥る疾患であり、また高血圧、多発肝嚢胞、脳動脈瘤などさまざまな腎外症状をきたす全身疾患である。高血圧の合併はADPKD患者の50~80%に見られ、腎機能障害の進行の悪化要因になり、高血圧の治療は嚢胞進行抑制に非常に重要とされている。ADPKD患者の高血圧発症の機序はいくつか説があり、その中でレニン・アンジオテンシン系(Renin-angiotensin- system:RAS系)が亢進し高血圧が発症すると説もあるが、その全容は未だ明らかではない。またカルシウムチャンネル拮抗薬(Calcium Channel Blocker:CCB)投与が嚢胞進行に悪影響を与えるという報告があるが、確固たるエビデンスはない。そこでCCB,angiotensin receptor blocker (ARB),直接的レニン阻害薬(DRI)をADPKDモデルマウスに投与し嚢胞形成に与える影響を検討した。結果DRI群でのみ有意に嚢胞形成が抑制された。ARB群では嚢胞形成は抑制しなかったが、CCBと比較してDRIと同等の腎臓の線維化抑制効果を認めた。今後嚢胞抑制や線維化抑制の機序について検討する。15O-water PET検査は低侵襲で定量的に高い精度で血管内皮機能を測定できるものであり、高血圧発症前のごく初期のADPKD患者に対して15O-water PETを用いて血管内皮機能を測定することで、高血圧発症に対する血管内皮障害の検討をすることとし、健常人、患者ともにリクルートをすすめ、データを蓄積できている。
2: おおむね順調に進展している
降圧剤投与実験に必要なマウスはすべてそろい、浸透圧ミニポンプでの降圧剤投与の手技も安定して行え、Ariskiren群、Olmesartan群、Vehicle群、Amlodipin群の各群にわけた、降圧剤の初回の投与は終了した。腎臓・肝臓を摘出も完了し、今年度の目標である組織学的変化の検討を終えた。今後は得られた材料を用いて嚢胞形成抑制の機序について検討を行っていく。15O-water PETを用いた血管内皮機能の測定についても健常人、多発性嚢胞腎の患者とも順調にエントリーがすすんでおり、検討をすすめている。
ADPKDモデルマウスに対する降圧剤投与実験に関しては、得られた肝臓および腎臓のサンプルを用いて、ウエスタンブロッティングやRT-PCRなどの手法によって、嚢胞形成抑制機序や線維化抑制機序の解析を行う。検討する内容としてはADPKDで言われている増殖やアポトーシスに関与する経路、cAMPによる経路などを考えている。腎内RAS系の検討を行うためにCCB、ARB,DRI、Vehicle群のそれぞれのマウスの尿や血液を採取して、尿中アンジオテンシノーゲンなどの腎内RASに関与するマーカーの検討を行う。また、屠殺直前に,血漿レニン活性,及び血漿アルドステロン濃度を測定し、全身のRAS系の解析も行う。組織を用いて局所のRAS系の亢進がないかの検討をレニンやアンジオテンシノーゲンなどの免疫を行っていすすめる。15O-water PETを用いた血管内皮機能の測定の実験に関しては、まずは得られた患者背景、腎機能、脂質、尿蛋白、血管内皮障害のマーカー、尿中アルブミン/クレアチニン比などの項目について、データ解析をすすめる。また、心筋血流量(MBF)、寒冷昇圧試(CPT)、ATP負荷時のMBFを測定して血管内皮機能だけではなく、血管平滑筋機能をみることで、ADPKD群を高血圧患者の高血圧発症がどのようにおこってくるかを検討する予定である。
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