研究実績の概要 |
本研究では経動脈的にp53 siRNAを投与した場合に虚血再灌流による腎障害に対する効果を検討した。トランスフェクション試薬には直鎖型陽性ポリマーのポリエチレンイミンを用い、P53に対するsh(short hairpin) RNAプラスミドを経動脈的に左腎に虚血直後に投与した場合、12時間後の髄質外層のヘンレ上行脚尿細管細胞(mTALH)での障害の軽減, アポトーシスの増加およびミトコンドリア腫大の軽減を認めた。P53 shRNAの尿中neutrophil gelatinase-associated lipocalin (uNGAL) レベルに関する検討では、P53 shRNAは、uNGALの上昇を抑制しており、p53 shRNA治療によるmTALHの虚血再灌流障害の軽減に関連することが考えられた。NGALは血清クレアチニン値よりAKIの鋭敏なマーカーであり、NGALの起源はmTALHと集合管であることが示されている2)。IRによりmTALH細胞では、p53の発現亢進とともにβ-catenin発現低下を認め、p53 shRNA投与により、β-catenin発現の回復も生じた。β-cateninは細胞骨格での役割と、Wntシグナル経路における核転写での役割について重要である。核酸治療のカテーテルを用いて局所的に投与を行い、腎IRにおいて副作用を軽減した有効な治療法となる可能性が示された。静脈投与によるIR障害改善効果は、近位尿細管S3で評価されていたが、これはshRNAが糸球体濾過を介して近位尿細管に到達する経路が考えられる。この研究におけるshRNAのmTALH細胞における有効性は、経糸球体濾過以外に直血管を経由したデリバリーが関与している可能性を示された。
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