前年度に引き続いて、消化管由来のインクレチンGlucagon-like peptide-1(GLP-1)とその分解酵素Dipeptidyl peptidase-4(DPP-4)の腎臓内シグナル伝達系とこれらをターゲットとした糖尿病性腎症に対する治療の可能性について検討することを目的とし、マウスを用いて研究を遂行した。前年度までの進行性糖尿病性腎症マウスモデルKK/Ta-Akitaマウスを用いた研究から、DPP-4阻害によりDPP-4の基質の一つであるStromal cell-derived factor-1alpha(SDF-1alpha)の発現が腎臓の糸球体上皮細胞と遠位ネフロンで特異的に増加すること、DPP-4阻害によるSDF-1の腎臓での発現増加は尿中ナトリウム排泄を促進し、糸球体高血圧の改善をもたらす可能性があること、さらには選択的SDF-1alpha受容体拮抗薬AMD3100の投与実験を行い、SDF-1alphaからのシグナルの遮断により、上述した腎保護効果が消失することを明らかにしてきた。最終年度には、これらの所見をさらに検証するため、進行性糖尿病性腎症マウスモデルKK/Ta-Akitaマウスに対する選択的SDF-1alpha受容体拮抗薬AMD3100の投与実験を再び行い、SDF-1alphaからのシグナルの遮断による上述した腎保護効果消失の機序について検討した。SDF-1alphaからのシグナル遮断は、腎臓での酸化ストレス増加を惹起することで糸球体上皮細胞の脱落を促進し、遠位尿細管での尿中ナトリウム排泄を抑制し糸球体高血圧を増悪させることにより、糖尿病性腎症の病態の進展につながることが明らかとなった。以上より、DPP-4阻害は腎臓内での活性型GLP-1のレベルを高めることに加え、SDF-1alphaの発現増加を惹起することで腎保護に貢献することが示された。
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