研究課題
本研究課題では、チロシン脱リン酸化系シグナル分子の遺伝子改変マウスを用いて、腎炎発症機序の解明を行うことを目的とした。解析対象としたのはSHP-1と呼ばれる、非受容体型チロシンキナーゼである。SHP-1は血球系細胞に発現しており、造血細胞や免疫応答細胞の分化・増殖や活性化を抑制する働きを有することが知られている。我々は免疫応答の司令塔的役割を演じる樹状細胞特異的にSHP-1を欠損するマウスを樹立し、このマウスの腎における免疫病態を解析した。既に、本マウス(SHP-1-CKO)では抗核抗体や抗DNA抗体が血中に出現し、間質性肺炎や糸球体腎炎などの自己免疫病を発症することが我々のグループから明らかにされている(J Immunol 188:5397, 2012)。この事実は、樹状細胞に発現するSHP-1が免疫寛容の維持に重要な役割を果たしていることを示唆する。そこでSHP-1-CKOの腎病態をさらに詳細に解析したところ、Shp1-CKOは40週齢より尿中Na排泄の増加を伴った多尿を認め、60週齢では腎機能の低下を認めた。FCM解析では加齢に伴い腎臓内にCD11c、F4/80、CD4陽性細胞の増加がみられた。 特にCD11c+F4/80+ダブルポジティブ細胞の増加を認め、これらの細胞では高頻度に増殖マーカーであるKi67が陽性であった。F4/80+細胞ではTNFα、IL-6などの炎症性サイトカイン産生亢進を認め、CD4+T細胞はメモリータイプのTh1細胞が主体であった。DC特異的Shp1欠損によりCD11c+F4/80+細胞増加とTh1細胞の集簇を伴う自己免疫性腎炎が惹起され、尿細管障害が引き起こされた。本研究課題によって示された事実より、DC特異的Shp1欠損によりCD11c+F4/80+細胞増加とTh1細胞の集簇を伴う自己免疫性腎炎が惹起されると考えられた。
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