研究課題
我々は以前、Tcf21と呼ばれる転写因子がポドサイトの発生分化に必須であることを見いだした。Tcf21は成熟腎ではポドサイトと間質細胞に発現し、胎生期にはネフロン並びに間質の前駆細胞に認められる。Tcf21をネフロンの前駆細胞で欠損すると、ポドサイトの分化が著しく障害され、また、発生途中のポドサイトでTcf21を欠損する(Pod-KOマウス)と、一部のmutantマウスは大量の尿蛋白と糸球体硬化を呈するが、60%のマウスは尿蛋白を示さない。糖尿病性腎症におけるTcf21の役割を検索する目的で、Pod-KOマウスの非尿蛋白群を集め、ストレプトゾトシン(STZ)を用いて糖尿病を惹起したところ、数週後からマウスは次々と尿蛋白ならびに糸球体の硬化を来たし、Tcf21は糖尿病性腎症に対し保護的に働く可能性が示唆された。しかしながらこのマウスは胎生期に既にポドサイト傷害を来たしている可能性があったため、出生後3週以降の成熟したポドサイトにおいてTcf21を欠損したところ、マウスは24週齢まで明らかな表現型を呈さなかった。更に3週齢にてTcf21を欠損したマウスに6週齢以降に糖尿病を惹起すると、STZ投与後9-12週が経ってから遅発性の尿蛋白と糸球体の硬化をきたすことが分かった。電子顕微鏡レベルで観察しても、変異マウスにおいてはポドサイトの足突起の癒合や平定化が認められた。即ちTcf21はポドサイトの発生分化に必須であり、成熟した糸球体では定常状態では必須ではないが、糖尿病性腎症を含む疾患状態において腎保護的に働いていると考えられる。
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