研究実績の概要 |
当該年度は、hypoxia inducible factor (HIF)-3の主要標的遺伝子であるlysyl oxidase(LOX)の機能阻害による尿細管間質病変への影響を検証した。前年度の研究成果により、LOXの特異的阻害剤であるβ-aminopropionitrile (βAPN)を尿管結紮モデル(UUO)ラットに投与したところ、細胞外器質タンパクの蓄積が抑制されていたことから、本年は同知見の外挿性をSTZ誘発I型糖尿病モデルにおいて検討した。ラットにSTZを投与し、3週間後に採材して病理組織評価を行った。免疫染色によって尿細管間質領域の細胞外基質 (collagen I, III, fibronectin、αSMA)および間葉系マーカー (vimentin) の発現を評価したところ、LOX阻害群においてそれらの発現が有意に抑制されていた。また、βAPNによる抗線維化作用は、リアルタイムPCR法によるcollagen I, III, fibronectin、αSMAのmRNA定量評価によっても確認された。さらに、尿細管細胞の肥大・線維化シグナルに対する検討として、リン酸化(p)ERK、pAkt、pP70S6Kの発現検討を行った。ウエスタンブロット法によってこれらのタンパクの手雨量評価を行ったところ、βAPN投与群においてこれらのタンパクがいずれも有意に低下していたことから、LOX阻害による抗線維化作用を説明する分子機構であると考えられた。腎臓におけるtransforming growth factor (TGF)-β発現量を追加検討したところ、同発現はLOXの阻害により有意に抑制されることが明らかになった。以上により、LOXの機能阻害は様々なCKDモデルにおいて抗線維化作用をもたらすことが判明し、HIF-3による抗線維化作用を担う分子機序の一つであると考えられた。
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