線維化は臓器障害に対する過度の創傷治癒反応、すなわち細胞外基質沈着と細胞外基質産生能を有する細胞の集積を特徴とする。本研究では、これら過度の創傷治癒反応をもたらす分子生物学的基盤として、脂質メディエーターの一つであるリゾフォスファチジン酸(lysophosphatidic acid; LPA)およびその受容体LPA1シグナルに着目し、上皮間葉連関を介した臓器線維化にはたす意義の解明を試みている。平成27年度は平成26年度に引き続いて、I型プロコラーゲンプロモーター下でgreen fluorescent protein (GFP)を発現するLPA1受容体欠損マウス(COLGFP-LPA1-/-)および対照マウスを用いて一側尿管結紮(UUO)にて腎線維化モデルを作成した。GFPにくわえて細胞増殖マーカー(proliferating cell nuclear antigen; PCNA)や筋線維芽細胞マーカーで線維芽細胞の動態を評価したところ、LPA1受容体は線維芽細胞増殖や筋線維芽細胞分化に関与することが明らかとなった。また、近位尿細管上皮細胞(PTEC)はLPA1受容体依存性に転写因子myocardin-related transcription factor (MRTF)-A/Bとserum response factor (SRF)を介してconnective tissue growth factor (CTGF)を上清中に分泌することを見出した。上清中CTGFは線維芽細胞の増殖や筋線維芽細胞マーカー発現を誘導することが明らかとなり、以上より、PTECでのMRTF-SRFを介するLPA-LPA1シグナルが線維芽細胞の増殖や分化を誘導することで、腎線維化進展に寄与することが示された。
|