研究課題
糸球体疾患における尿蛋白の増加は、その後の尿細管間質病変の進展を伴う腎機能低下の原因となる。よって、治療抵抗性の尿蛋白持続症例に対する新たな治療法の確立を目指す上で、「尿中蛋白からの尿細管細胞保護機構の解明」が重要な研究課題の一つとなる。NAD (nicotinamide adenine dinucleotide)は全ての真核生物が保有する電子伝達体であると共に、解糖系に存在する種々の酵素に対する補酵素としても働くなど、細胞内エネルギー代謝維持に不可欠な分子である。更に近年、飢餓状態における細胞内恒常性維持に重要な役割をもつ脱アセチル化酵素SirtuinやPARPといった酵素群の活性もNADにより制御されうる事が明らかとなり、細胞内エネルギー代謝におけるNADの役割の解明を目指した研究が精力的進められている。しかし現在、哺乳類におけるNAD代謝経路やNADと各種疾患との関連には未だ不明な点が多く、本研究では、尿蛋白に伴う尿細管障害に関わりうるNAD代謝酵素群の網羅的スクリーニングから同定した一酵素のNAD代謝における生理的役割、ならびに慢性腎臓病の発症進展における役割の解明を目指すこととした。FFA-albを腹腔内投与し近位尿細管障害を惹起したマウスとFFA-albで刺激したマウス培養近位尿細管細胞を用いて、遺伝子発現量が変化するNAD代謝酵素を検索し、FFA-albにより遺伝子発現が上昇するNAD代謝酵素としてNNMTを新規同定した。細胞実験において、NNMT過剰発現は代謝分子1-Methylnicotinamide (1-MNA)の細胞内濃度を上昇させ、FFA-albによるアポトーシスを抑制した。1-MNAの前孵置も同様に、FFA-albによるアポトーシスを抑制した。さらに、1-MNAの経口投与はFFA-alb腹腔内投与マウスにおける腎障害(アポトーシス・炎症・線維化)を抑制した。NNMTおよび1-MNAは糖尿病性腎症の近位尿細管障害の新規治療標的となる可能性が示された。
2: おおむね順調に進展している
当初の予定通りに順調にしている。引き続き次年度の研究予定である。
①近位尿細管特異的NNMT過剰発現マウスの作製。近位尿細管細胞特異的に発現するsodium-phosphate cotransporter IIa (Npt2)遺伝子のプロモーターならびにCloningしたマウスNNMT遺伝子を用いて、NNMT過剰発現マウスの作成を開始する。②近位尿細管特異的NNMT欠損マウスの作製。Cre-LoxP系を用い作成する。近位尿細管特異的Cre発現マウスと、今後作製予定のNNMT-floxマウスとの交配により作製する。近位尿細管特異的Cre発現マウスはKidney androgen-regulated proteinのpromoterを用いた組織特異的Cre発現マウスであり、作製者である松阪泰二先生(東海大学)より供与済みである。同Creマウスは当教室の過去の実験において既に使用されており、各尿細管セグメント中でも、尿蛋白に伴う尿細管障害を起こしうる近位尿細管セグメントに発現していることがすでに確認できている。検討④、⑤に関して、NADが細胞の発達にも不可欠な因子である場合には、酵素発現の変化がNAD代謝の異常を引き起こし、胎生期における近位尿細管細胞の発生に影響を及ぼすこととなる。結果、成体での生理的機能評価を行えなくなる。その際にはタモキシフェン誘導性Creマウスなど、薬剤誘導により後天的にCreを発現させるマウスを使用した遺伝子欠損あるいはコンディショナルノックインマウスの作製に変更する。③NNMTの発現変化が細胞内NAD濃度に変化を及ぼすことが確認されれば、NNMTがNAD代謝経路上のどこに位置するかを検討する。NNMT過剰発現細胞および発現抑制細胞におけるNAD代謝産物の測定を行い、NNMTがNAD代謝のどの段階に関わる酵素であるかを同定する。現時点で知られているNAD(H)を含むNAD関連代謝産物、NADP(H)、nicotinamide mononucleotide、 Nicotinamide、 Nicotinateの測定を行い、対照細胞の細胞内濃度と比較検討する。
研究計画は計画通りに実行されており、学会発表など成果も出ている。実験に使用する計画金額としては2,470,000円中、2,454,410円とほぼ予定通りに使用することができた。ただ、試薬などの納入価格の変動により一部計画通りに購入できなかったものもあり、15,590円の次年度繰越となってしまった。
実験に使用する抗体、試薬の購入価格に当てる予定。
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