研究課題
昨年度、培養ポドサイトにおけるインスリンシグナルを抗アポトーシス効果を持ち合わせるリン酸化Aktの発現変化で確認したが、今年度はその上流にあるインスリン受容体基質(IRS)1のチロシンリン酸化の検討を行った。低グルコース濃度(5.6mM)におけるIRS1のチロシンリン酸化はインスリン(10nM)により非刺激時に比べ2倍程度増加した。一方、高グルコース(20mM)におけるIRS1のチロシンリン酸化は低グルコース濃度時に比べ、10%程度抑制されていた。我々はプロテインチロシンフォスファターゼの一つであるSrc homology-2 domain-containing phosphatase-1 (SHP-1)が高血糖状態において賦活化されることで血管内皮細胞増殖因子(VEGF)レセプターのリン酸化が結果的に抑制されることがポドサイトアポトーシスの本体であることを示しているが、本研究においてはSHP-1がIRS1のチロシンリン酸化を阻害することでポドサイト内インスリンシグナルが抑制されている可能性を考えている。現在、高血糖状態において抑制されるIRS1のチロシンリン酸化がsiRNAを用いたSHP-1のノックダウンにより回復するかを確認している。さらに、糖尿病性腎症の進展には糸球体内皮細胞の機能低下が関与することが知られているが、そのメカニズムの一つは内皮細胞間葉移行(Endothelial-to-Mesenchymal Transition: EndMT)と考えられる。血管内皮細胞をパルミチン酸で刺激すると血管内皮細胞マーカーであるCD31が減少しEndMTが生じていることが示唆されたが、インスリン抵抗性を改善することが報告されているエイコサペンタエン酸(EPA)を添加することでCD31の発現低下が抑制されることを明らかにした。
4: 遅れている
SHP-1による直接的なIRS1のチロシンリン酸化の抑制が示されていないことと、ポドサイト特異的IRS1ノックアウトマウスの確立が困難な状況であることから当初の計画より遅れていると考えられる。
ポドサイト特異的IRS1ノックアウトマウスの確立を急ぐとともに、培養ポドサイトを用いた実験を継続する。SHP-1とIRS1の相互作用を確認するため前述のSHP-1のノックダウンだけでなく、アデノウイルスを用いたSHP-1の過剰発現による影響も検討する。さらに、培養ポドサイトにおいてSHP-1とIRS1を共染色することによりこれら分子のポドサイト内における局在を確認する。
消耗品(抗体など)の購入を予定していたが、国内在庫が枯渇していたため当該年度内での購入が困難であったため。
次年度使用額として計上し、実験遂行に必要な消耗品の購入に充てる予定である。より計画的に使用する。
すべて 2016 2015
すべて 雑誌論文 (3件) (うち国際共著 2件、 査読あり 3件、 オープンアクセス 1件、 謝辞記載あり 1件) 学会発表 (4件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件)
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