研究実績の概要 |
腎臓の虚血再灌流障害は、急性腎不全の主要な原因の一つである。キサンチン酸化還元酵素(XOR)が産生する活性酸素が腎障害を引き起こす一方で、XORを介した亜硝酸からのNO産生が腎保護的に働く可能性が報告されている。 そこで、2か月齢のXOR遺伝子改変(XOR+/+、XOR+/-)マウスを用い、全身麻酔下に両側腎動静脈の血流を45分間遮断後48時間再灌流した(XOR+/+ IR、 XOR+/- IR)群、各々のSham群を作成した。XOR+/+マウスに虚血開始20分前に亜硝酸を腹腔内投与する(XOR+/+ Nit)群と再灌流直前にXOR産生阻害薬(アロプリノール)を腹腔内投与する(XOR+/+ Allo)群の計6群を作成した。再灌流48時間後に血液と腎臓組織を採取し、血清BUN、Crによる腎機能の評価、PAS染色による組織学的検討、炎症や酸化ストレスに関係するマーカーの免疫組織染色、遺伝子発現の変化や腎臓組織中のXO/XDH活性を検討した。 腎虚血再灌流により、XOR+/+マウスはXOR+/-マウスに比べ有意なBUN, Crの上昇を認めた。アロプリノール投与、亜硝酸投与は腎虚血再灌流による腎障害をXOR+/-マウスレベルまで有意に改善した。腎虚血再灌流障害では、TNF-alpha. MCP-1遺伝子の発現亢進を認めたが、Nox2, Nox4遺伝子の発現には群間に差がなく、eNOSの発現はSham群に比べ虚血再灌流により低下した。一方、XO/XDH活性は虚血再灌流により有意に増加した。組織学的検討では、腎皮髄境界の急性尿細管壊死の所見は、虚血再灌流4群間で同程度であったが、XOR+/+ IRに比べXOR+/- IR、XOR+/+ Nit及びXOR+/+ Alloでは、皮質尿細管拡張並びに障害の程度が軽度で、ニトロチロシン、F4/80陽性細胞数も減少していた。
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今後の研究の推進方策 |
腎虚血再灌流障害に関しては、ヒト尿細管培養細胞HK2細胞を用いて、低酸素再酸素化における細胞障害並びに亜硝酸投与下の臓器保護にXORがどのように関与しているかを明らかにしていく。 まず、低酸素再酸素化における①XOR遺伝子、XORタンパク質発現とXOR活性の時間的変化、②活性酸素マーカーや炎症マーカーなどの発現の変化、③アポトーシスとの関連などを検討する。 次に1)XORの遺伝子発現をXOR特異的なsiRNAにより低下させた場合、2)ヒトXOR遺伝子の過剰発現系を用いてXORの遺伝子発現を亢進させた場合、3)薬理学的に新しい尿酸産生酵素阻害薬トピロキソスタットを用いてXOR活性を抑制した場合において、①~③の項目を比較検討する。また、亜硝酸(nitrite)投与と上記1)~3)を組み合わせて、組織保護効果にXORの発現レベルがどのように影響を与えるかを検討する。 さらに、XOR/eNOSマウスを用いて腎虚血再還流モデルマウスを作成し、腎虚血再灌流障害におけるXOR及びeNOSの役割を明らかにする。 XOR/eNOS、XOR/ApoE double KOマウスの加齢に伴う検討では、以下の4項目に関して評価する。1)血圧、体重 2)血液検査:血清尿酸値、BUN, Cr, AST, ALT, 総コレステロール、中性脂肪、LDL-chol, HDL-chol、血糖値 3)組織学的検討:血管、腎臓、心臓 4)内皮機能検査:胸部大動脈の内皮依存性血管弛緩反応、内皮非依存性血管弛緩反応を評価する。
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