研究課題/領域番号 |
26461236
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研究機関 | 慶應義塾大学 |
研究代表者 |
徳山 博文 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50276250)
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研究分担者 |
脇野 修 慶應義塾大学, 医学部, 講師 (50265823)
林 晃一 慶應義塾大学, 医学部, 准教授 (80164937)
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研究期間 (年度) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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キーワード | 肥満関連腎症 / Rhoキナーゼ / 近位尿細管 / RhoA |
研究実績の概要 |
我々はこれまで、細胞の肥大に機械的伸展刺激によるRho/Rhoキナーゼ経路の活性化が炎症と深く関わることを証明してきた(Science Signaling. 2010)。腎臓組織においても、糖尿病発症前の肥満の段階で糸球体肥大、および近位尿細管占有面積拡大を呈し、Rhoキナーゼ阻害薬が尿Alb及び尿細管障害マーカーNGALの上昇を抑制することを報告した(Int J Obes. 2012)。尿細管細胞における肥大・脂肪沈着・空胞化に伴う機械的刺激により誘導されるRhoキナーゼの重要性を近位尿細管特異的にdominant-negative RhoA遺伝子が過剰発現するトランスジェニックマウス(DN)を用い検討した。6週齢のC57BL/6Jマウス(WT)、DNをそれぞれ低脂肪食群(LFD)、高脂肪食群(HFD)の計4群に分け12週間飼育した。高脂肪食投与によって、近位尿細管中心にRho/Rhoキナーゼの活性化を認め、DNではその活性化が抑制されていた。WT+HFDで増加をみとめた尿Alb、尿NGALは、DN+HFDでは有意に低下し、炎症性サイトカインであるMCP1の誘導抑性、炎症細胞浸潤、線維化の改善を認めた。肥満関連腎症では、近位尿細管拡大に伴う機械的伸展刺激により、Rho/Rhoキナーゼ経路が活性化し、炎症性ケモカインの誘導、組織障害が惹起されることが考えられた。これまでの検討では、近位尿細管Rho/Rhoキナーゼ経路は、非糖尿病・肥満関連腎症に対する早期治療介入の治療ターゲットとして重要であることを示唆する結果となっている。さらに、我々の検討では肥満関連腎症モデルマウスでは、組織学的に糸球体のみならず尿細管が肥大し、尿細管周囲毛細血管は密度が低下しており、ピモニダゾール陽性を示し、肥満関連腎症の病態生理の一つとして近位尿細管における相対的虚血の存在を示唆する結果を得ている。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
近位尿細管特異的dnRhoA TGマウスを作成し、低脂肪食、高脂肪食飼育による表現型の確認が順調に行うことができた。さらに、同マウスを用い、糖尿病性腎症まで進行させた時の表現型について検討を行う段階まで進むことができた。また、肥満関連腎症の病態生理の一つとして、相対的虚血の存在をつきとめることができ、達成度は順調と言える。
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今後の研究の推進方策 |
培養細胞系を用いて、細胞肥大を再現し(伸展刺激、アンジオテンシンII刺激、インスリン刺激)、尿細管細胞の肥大とRhoキナーゼの活性化の関係を明らかにする。細胞肥大の原因となる空胞化の原因と意義付けに関して検討する(megalinの発現など)。これまで通り、非糖尿病・肥満関連腎症の病態生理を明らかにしていくとともに、同マウスを用い、肥満関連腎症からさらに進行した糖尿病性腎症における表現型をさらに検討する。また、微量アルブミン尿に代わる新規診断マーカーの検索を行い、早期治療介入を試みる。近位尿細管から糸球体、特にpodocyteへの細胞間連関のmediatorとして我々はすでにNMNを同定している。この病態解明の新たなパラダイム尿細管-podocyte細胞連関に着目したCKDの発症進展機構を提唱し、早期診断指標の確立を目指す。非糖尿病・肥満関連腎症という早期腎症における組織学的・質的変化と尿中Claudin-1、nicotinamide mononucleotide (NMN)の動態との相関を明らかにすることで、尿中Claudin-1、NMNの臨床的早期診断マーカーへの応用を考える。さらに、近位尿細管特異的にCre recombinaseが発現するTamoxifen誘導型NDRG Creマウスと、Flox PHD2マウスを交配し、近位尿細管特異的PDH2 KOマウスを作成し、近位尿細管で局所的にPHD2の発現低下を誘導開始した時点で高脂肪食摂取を開始することによる表現型の評価を行い、肥満関連腎症の病態生理における近位尿細管相対的虚血の関わりをさらに検討していく。
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